第27話 案内
ふと時計を見ると、もう奈良公園を散策する制限時間は残り10分を切っていた。
マミはルカ、ユキ、カケルの間に割って入り「はいはい、もう時間だから集合場所にそろそろ戻ろうねー」と全員の手を引き剥がすと、カケルをじぃっと睨みつけた。
カケルは「な、なんだよ」と少し焦った顔をしている。
マミは「別にぃー」と嫌味っぽい口調で目を細めて言うと、「じゃあ、ユキ、クラスの集合場所に戻ろっか」と声をかけ、ユキの腕を引っ張って無理やり集合場所に引きずっていった。
カケルは「おい、マミ、ちょっと! 何か言おうとしたろ? もしかして怒ってんの?」と声をかけ呼び止めようとしたが、カケルの前にルカがひょこっと顔を出し「カケルくん、本当にありがとう! カケルくん、かっこよかったよ!」と、とびきりの笑顔を見せつけてきた。
「お、おう。シカに食われたりとかしなくてマジで良かったな」
カケルはキラキラな笑顔を見て照れ笑いをすると、ルカは「じゃ! ワタシ、クラスのみんなが待ってるから行くね! また後でねー!」と、ぴょんぴょん跳ねながら集合場所の方に戻っていった。
カケルは遠ざかっていくマミたちやルカを見ながら立ち尽くしていていると、一部始終をそばで見ていた大野から「おい、なにルカちゃんにちゃっかり手握られてるんだよ、この野郎!」と肩パンを食らった。
小野寺からも「見つけたのは俺なんだぞ! 俺の手柄を返せ!」と逆側に肩パンをお見舞いされた。
「いってぇっ! 何すんだよお前ら!」
カケルは声をあげるも、マミが怒った素振りを見せていたのがどうにも気が気でならないのであった。
一同はバスに乗り込み、次の目的地である法隆寺を目指した。
ユキはバスの中でマミに向かって「シカさん可愛かったね~」と話しかける。
マミは苦笑いしながら「あはは、そうだねー」と相槌を打つも、心の中では悶々としていた。
(油断も隙もない! ルカもユキも、この修学旅行でカケルに一気に距離を詰めようって気持ちがにじみ出てる! このままだとカケルはまんまと2人の策略にハマっちゃう。これはなんとかして、アタシがカケルにべったり張り付いて、回避させなくちゃ……!)
マミは改めて、受け身のままでは修学旅行が失敗してしまうことを痛感したのであった。
バスは法隆寺に到着し、生徒一同はばらばらとバスから降りていく。マミはカケルを見つけると、トントンと肩を叩いた。
「ねぇねぇ、カケル、歴史あんまり得意じゃなかったよね? アタシが法隆寺、案内してあげよっか?」
突然のマミからの提案にカケルは少し驚いたが、「お、おう。ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」と、マミの提案を受け入れた。
すると、近くにいた大野もマミの提案を聞いていたのか「あーあ、カケルはずるいな~、俺も教わりたいな~」とちゃちゃを入れてきた。
小野寺も便乗して「俺も俺も~」と大野の身体の横から顔を覗かせる。
(くうっ、カケルにアプローチする前に、この男子たちが割って入ってきちゃうのか……)
マミは少し怪訝な顔をしたが「し、仕方ないなぁ。じゃあ、みんなまとめて教えてあげるよ~」と苦笑いをする。
隣でルカも「やった~、マミ先生よろしく~!」とちゃっかり便乗してきたのであった。
5人はクラスの輪を乱さぬようにあるきながら、法隆寺の南大門をくぐり、敷地内を進んでいく。
すると、正面に中門が見えてきた。
「ここには、日本最古の仁王像って言われてる金剛力士像が立ってるんだよね……」
マミの顔がだんだん引きつってきた。
マミは大きくて怖そうなものが苦手である。門に向かいながら、自然とカケルに近づいた。
そしてとうとう金剛力士像の前に来た。大野と小野寺は「うお~! かっけぇ!」と目を輝かせながら像を見上げている。
マミは「うわぁ、これ、動き出したらどうしよう……」と言いながら、怯える顔でブルブルと震えだし、カケルの腕にガシッとしがみついた。
カケルはそんなマミの反応を見てアハハと笑うと、腕を掴まれたまま、脇をぐっと締めマミを引き寄せた。
「おいおい、何ビビってんだよ、生きてないんだから大丈夫だろ。ほら、奥の方も案内してくれよ先生」
「う、うん……」
そんな様子をちらっと見ていた大野は「え、マミちゃん金剛力士像が怖いの? 意外だわ~、怖いものなしかと思ってた」とヤジを飛ばした。
「う、うっさいな! もう大野は案内してやんない!」
そのやりとりを見ていた小野寺とカケルはケラケラと笑った。
だが、ユキはムスッとした顔をしてマミを睨みつけるのであった――。
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