第22話 ダブルパンチ

 車内に再びマミの大声が響き渡ると、車内の生徒たちから「あいつ、また大声出してるよ」と嘲り笑うかのようなくすくす笑いが起きた。


 マミは恥ずかしくなりうつむくと、もう一度ユキが言ったことを心の中で反芻した。


(ユキ、何言っちゃってんの!? 『修学旅行が終わったら、カケルくんに告白しようと思うんだ』って、何かの冗談? ユキもカケルのことがずっと好きだったってこと? こんなの過去では聞いたことなかったし、そんな素振りも見せなかったのに……)


 マミは居ても立っても居られずバッとユキの方を向くと、ユキは「あ~、言っちゃった~」とぼやきながら、顔を覆うようにに両手の平を当てていた。



 マミは「ねぇ、今言ったのって、冗談だよね?」と苦笑いして尋ねると、ユキは覆っている手の指から左目だけをマミに覗かせ、首を横に振った。


 その様子を見たマミは目と口を大きく開け、まるでムンクが叫んでいるかのごとく手でぶにっと頬に押し込んだ。


(この仕草、ユキが本気で照れ隠しするときにするやつだ……。避けるべき敵はルカだけじゃないってことなのね……。あぁ、もう、ルカの対応だけで気持ち的には精一杯なのに、よりによってユキまでそんなことになるなんて……)


 マミはショックを受けていると、また前方から教師がやってきて「おい、車内では静かにしろよ、周りに迷惑だろうが!」と顔をこわばらせて注意しに来た。


 二人は教師の方を向き、顔に手を当てたままペコリと頭を下げ「すみません」と謝ると、教師は「にらめっこでもしてんのか? ……そしたら声出さずにやれよ」といらついた表情でその場を後にした。



 ユキは、マミの方を向くとえへへと苦笑いしながら小声でマミに話しかけた。


「実はね、ウチ、小学生の頃から、カケルくんのこと好きだったんだ。恥ずかしくて誰にも言えてなかったんだけど……。マミになら話してもいいかなって思って、思わず言っちゃった。……驚かせちゃってごめんね」


「う、うん。すっごいびっくりした。多分、この時代で一番びっくりしたと思う」


 ユキが「この時代?」と不思議そうな顔をしたので、マミは「ああ、なんでもないなんでもない」と慌てて訂正した。


「ええっと、ユキさ、カケルの、その……、ど、どんなところが好きなの?」


「え~それ聞いちゃう?恥ずかしいよぉ」


 照れるユキを見て、まどろっこしくなったマミはしつこくねぇねぇと尋ねる。


「えっとね……、ウチって、ダメダメでいろんな人に怒られてばっかりだから、あんまり優しくされるような時ってなくて……。でもね、カケルくん、こんなウチにもすっごく優しいというか、誰にでも優しいところというか、気配り上手っていうか……。さっきも、ウチらが叫んだときにさ、心配して駆けつけてくれたりとか、思いやりがあるっていうか、とにかく優しいところが……」


 ユキはまた手のひらで顔を隠し、覆っている手の指から左目だけをマミに覗かせている。


(うわぁ、本気で好きな人のこと説明するときに言いそうなやつ……!)


 マミは、ユキが本気でカケルのことを想っていることを知り、だんだんパニックになってきた。


「え、え、でもさ、今まで全然そんなこと、アタシに話してくれなかったじゃん? 何、今になってそんな暴露したの?」


「だって、そんなの恥ずかしくて言えないじゃん~。小学生の頃は、ただ気になってただけだったんだけどね。ウチとカケルくん、3年間同じクラスじゃん? カケルくんの日頃の行いとか見てると、気になってる、が好きだったんだな、ってだんだん気付いてきたっていうか……」


「んんん? な、る、ほ、ど~?」


 ルカは修学旅行中におそらくカケルへ告白するつもりだ。ユキは修学旅行が終わったらカケルに告白すると言っている。そしてカケルも、マミが死んだときに霊安室で遺体に話しかけていた通りに未来が進んでいくのであれば、このまま喧嘩などしなければマミへ告白するはず。


 マミは、思わぬ恋のライバルがもう1人出現したことによって思考回路が一気に増えてしまい、対処方法が分からず頭がパンクしかけていた。


(この状況、アタシはどう立ち回れば……)


 黙ってうつむき考えているマミに、ユキはそっと下から顔を覗かせる。


「ねぇねぇ、マミってさ、昔からカケルくんとすっごく仲良いじゃん? ……マミは、カケルくんのこと気になったりしてないの?」


 右ストレートで思いっきり顔面を殴るような質問。


「……へ? あ、いやいや、全然! そ、そんなこと思ってないよ。だってカケルとアタシは幼馴染だもん」


 思考中にルカに話しかけられ、マミは咄嗟に反応してしまった。


「え、ほんとに!? ……良かったぁ~。ウチ、それだけがすっごく怖くて、マミにも言えなかったんだ。すっごく安心した!」


 ユキは、心底安心した顔になり、ほっと胸を撫で下ろした。



(あー、またやっちゃったよ~~~!!!)


 マミは、また一つ嘘をついて後悔したのであった。

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