別に特別なことでもない

そんなこんなで、俺達は、生活用品の数々を手に入れ、早々にその場を立ち去った。もしかすると他の村からも火事場泥棒が来るかもしれないからだ。五日も経ってそのままだったところを見ると来ない可能性の方が高いが、だからといってあまり欲をかくと何があるか分からない。


なお、現金や貴金属の類と思しきものは見当たらなかった。ここを戦場にした兵士達が持ち去ったのかとも思ったが、実はこの時、俺は気付いてなかったんだが、重大な違和感が本当はあったんだ。


『兵士の死体らしきものが一つもなかった』


という違和感にな。それに気付いたのは何日も経った後で、それで俺は思い付いてしまったんだよ。


『これは、村人同士で衝突して、殺し合ったんじゃないか……?』


ってな。俺がいた村の連中、リーネがいた村の連中、そしてこの集落に元々いた連中。それらが集まってしまったことで軋轢が生じ、不満が溜まり、やがて殺し合いに至ったと。


俺とリーネの家の前を通っていった連中は、<難民>は難民でも、殺し合いを生き延びて目ぼしい金や金目の物を手にして逃走した奴らだったんじゃないか?


ってな。


まったく。人間の浅ましさをつくづく思い知らされるぜ。




が、この時はそこまで頭が回らなくて、普通の日常を送るには必要な生活用品の類を手に入れられて、俺は内心では『やったぜ!』とも思っていた。俺の両親やリーネの叔父叔母や、男の子の母親の死は痛ましいが、別に特別なことでもないしな。


正直、前世でも、俺の両親が死んだ時にも一つも悲しくなかったぜ。


結局、俺にとって特別な相手が死んだんじゃなければ、どうでもいいことなんだ。たぶん、今は、リーネが死んだりしない限り、落ち込むこともないだろう。


そういうもんだ。


ただ、リーネと男の子は、明らかに沈んだ様子だった。荷車の荷台に乗って抱き合ったまま、会話もない。


だが、それはそれでいいと思う。俺みたいに割り切り過ぎてるものどうかと思うんだ。二人には、死を悼む人間らしい気持ちを持ち続けてくれたらいい。


それが可能であるなら。


もし失ったっていいよ。残念ではありつつも、それはそれでアリだと思う。


こんな世界じゃな。『こうなれ!』と押し付けるつもりもない。


そんな二人と生活用品を乗せた荷車を曳いて、俺は坂を上った。いうほど荷物も多くなかったから、俺一人でも何とか上れた。


家に帰り着いた頃には、正直、かなり疲れてたけどな。


だが、帰ってみると、留守にしてたことで警戒されたなかったのか。ウサギが二匹、罠にかかっていたのだった。


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