躊躇すればそれは死に直結する
なんてことがあったが、まあ結論から言うと、何とか俺達は無事にやり過ごせたようだ。
軍隊はこちらには来ず、難民が何組か前を通るのが確認できたが、なんだかんだと途中に果実や木の実が豊富に生ってることもあり、食料などを奪うために押し入る必要もなかったようだな。
それより、『少しでも安全な所へ』ってことだったんだろう。
息を潜めて五日が過ぎ、難民の姿も確認できなくなったことで、俺は、リーネと共に麓の集落を目指した。彼女を一人で家に残しておく方が不安だったからだ。彼女も、戦場そのものは何度か目撃している。だからどういうものかも知ってる。
その上で、なるべく俺の近くにいてくれた方が守りやすいと思ったんだ。念のため、俺が作ったナイフと、彼女が元々持っていたナイフは装備させている。
「万が一のことがあったら、躊躇なく
俺は、はっきりとそう告げさせてもらった。彼女も、
「はい……!」
自分のナイフを握り締めて、青い顔で応えてくれた。相手がこっちを殺しに来るなら、躊躇すればそれは死に直結するだろう。
前世では、たぶん、いくらそんな風に思い込もうとしてもいざとなったら体が動かないなんてこともあったかもしれないが、正直、自分の両親をいつ殺してやろうかなんて何年も真剣に考えてたような人生を送って、しかも実際に人間が殺されるような光景も見てきてる今の俺には、元々ここに暮らしてる連中と同じメンタリティが宿ってる。
だから、たぶん、ヤれてしまうだろうな。人間相手はまだだが、ウサギもネズミもイノシシもヤってきて、命を奪うのにも血を見るのにも慣れてるし。
とは言っても、そんなことを自慢する気にもなれない。
『俺は人だって殺せるぜ!!』
とか、自慢にもならんだろ。武器があってチャンスがあれば人間を殺すなんて簡単だと、この世界に来て知った。殺すことより生かすことの方が難しい。だとしたら、簡単な<殺し>なんて自慢になんかなるかよ。それよりも生き延びることの方が、誰かを生き延びさせることの方が、よっぽど難易度が高いだろうが。
俺はリーネを生き延びさせて、それでドヤるぞ!
と、またしても<フラグ>のようなことを言ったが、現実はさらに高難易度を突き付けてきやがった。
「こいつは……」
ほとんどの家が焼き払われ、見るも無残な死体がまるでゲーム画面のようにごろごろ転がってる集落跡で、俺は、またも見付けてしまったんだ。
「生きてる……のか……」
火災は免れたらしいが完全に崩れ落ちた家で、何か使えるものはないかと瓦礫をどけた俺の視界に、母親らしい女に抱かれた三歳くらいの子供がスースーと寝息を立てている光景が入ってきたんだよ。
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