リーネと二人きりで暮らせれば

そんなこんなで、取り敢えず湯沸し用の鍋を設置し、


「まだ、日暮れまでは少しあるな、一~二回は水を汲んでこられるか……」


俺はそう考えて、


「リーネは夕食の用意を頼む」


「分かりました」


とやり取りし、天秤棒に桶を二つ吊り下げたものを担いで水場へと向かった。


俺達の家があるのは、山の割と頂上付近で、上に水場がなく、しばらく坂を下ったところに湧水があって、そこで汲んでくるしかないんだ。そういう不便さもあって、前の家主が死んで誰も利用せずに放置されてたんだろう。この辺りじゃこういう空き家も珍しくない。そして、誰も住んでなければ勝手に住み着いても文句を言われることもあまりない。そもそも、最初に家を建てた奴自身が、勝手に建てただけってのも多いしな。


いずれ、社会基盤が整備されて法律とかが及ぶようになればそんなこともできなくなっていくだろうが、町とかだともっと煩いだろうが、この辺じゃ今のところはそんな感じなんだよ。


叔父夫婦に奴隷や家畜同然に使われてたリーネももう叔父夫婦のところには帰りたくないし、俺も、自分の今の両親や村の連中とは顔も合わせたくないしで、当分、リーネと二人きりで暮らせればと思ってる。


まあそうは言っても、果実や木の実が豊富に採れて、罠を仕掛けるだけでたまにウサギやネズミも獲れる今のうちはそれでよくても、冬はさすがに食料などの調達には他人を頼らないといけないだろうし、それまでに生活基盤を整えて、それから鍛冶の仕事で、この山の麓にあるはずの集落の連中相手に農具でも売って食料を調達することを考えてる。


一応、庭にちょっとした畑も作るつもりだが、それだけじゃ二人が冬を越せるだけの収穫は得られないだろうしな。


そんなことを考えながら坂を下って行った俺は、


「……この臭いは……?」


鼻に届いてきた<嫌な臭い>にハッとなって、体が緊張するのを感じた。


焦げ臭い、大きな火が燃え盛る煙のそれと、


「人間が焼ける臭いだ……!!」


思ず声に出てしまう、本当に嫌な臭い。そして、木々の間から覗く空に立ち上る黒い煙。麓の集落からのようだ。


耳を澄ませば、何人もの人間が怒鳴ったり悲鳴を上げたりしてるような声も聞こえる気がする。


戦争だ…! 俺は直感した。元の村も戦場になりそうだったから慌てて逃げだしたが、こっちの方には来ないという読みだったが、当てが外れたか……!


くそっ! こりゃ風呂どころじゃない! 


そう考えた俺だったが、しかしだからこそ水は必要になると考え、湧水を汲んで急いで家に帰ったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る