二度手間

「トニーさん……?」


罠に獲物が掛かった気配に起き上がった俺に気付いて、リーネが目を覚ましてしまった。


「ああ、すまん。起こしちまったか。大丈夫だ。寝てたらいい」


「はい……」


俺はリーネにそう声を掛けてナイフを装備、さらに<やっとこ>とオイルランプを手に外に出た。すると、罠の一つで「キィキィ!」と声を上げながら暴れる影が。


「ネズミか……」


近付くと、確かにネズミだった。と言っても日本人がネズミと言われ思い浮かべるようなのの三倍くらいは大きいだろうが。で、俺は、オイルランプを地面に置き、やっとこでネズミの胴体を挟んで抑え、動きを封じた上でナイフでとどめを刺した。我ながら、流れるような作業だった。子供の頃から散々やってきたことだからな。


完全に死んだのを確認。ナイフを鞘に納め、ネズミを罠から外してやっとこと一緒に持ち、もう一方の手でオイルランプを拾って家に戻り、鍋の上にネズミを吊るして首を切り、鍋で血を受けながら血抜きを行う。


で、ネズミは吊るしたままにして、血は……


俺の言った通りまた眠ったらしいリーネを起こして下準備させるのも申し訳なかったから、もったいないが庭に庭に撒く。起きるまでに腐ると結局は捨てることになるからな。


<血のプディング>は、リーネが起きてる時に獲物が捕らえられた時の御馳走ということでいいか。


こうして俺も、再びベッドに横になって、今度こそ寝られたのだった。




「おはようございます」


「ああ…おはよう」


翌朝、俺がすぐに寝られなかったことで今度はリーネの方が先に起きて、声を掛けてくれた。


「ネズミだったんですね。すぐに下準備した方がいいですか?」


「ああ、頼む」


彼女は俺に確認を取ってから、始めてくれた。いい心掛けだと思う。どうせそのつもりだったから勝手にやってくれてても問題なかったが、それはあくまでこっちの意図したとおりに動いてくれればという前提の話。そうじゃなかったら今度はただの<迷惑>だ。


それじゃ意味がない。


鎚で石の角を落とす作業は取り敢えず後回しにして、俺は風呂作りを再開した。俺も十分に入れるくらいの大きさになった穴に、リーネが角を落としてくれた石を敷き詰めていくんだ。


……が……


『いかん、思ったよりも浅くなってしまう……』


そうだった。石を敷き詰めた分、明らかに浅くなってしまうんだ。少し考えればすぐ分かることのはずが、とにかく早く完成させたくて思考も浅くなってしまっていたようだ。


やれやれだ。こういうところが素人のダメなところだよな。


とは言え、手慣れた職人じゃないんだからミスがあって当然か。


こうして俺は、二度手間になってしまったが一旦敷いた石をどけて、再度、穴を掘り始めたんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る