身勝手な暴君
リーネは、本当にいい子だ。でもそれは、自身を守るための<戦略>でもあるのは、見ていて分かる。俺に気に入られようとして、<いい子>を演じているんだ。
でも、どれほどいい子を演じようとしても、嫌な相手の前だと、それはどうしたってぎこちないものになるだろう。だから、そういう部分が見え隠れしていないかどうかも、よく見る必要があると思う。彼女が<いい子>を演じてくれているからといってそれに胡坐をかいていたら、俺はたちまち、身勝手な暴君になってしまうだろうな。
だから、気を付けていかないとと思うわけだ。
一緒のベッドで横になり、彼女が安心して眠りについてくれてるのを確認すると、俺もつられるようにして眠りに落ちてしまう。前世では結局、味わえなかった感覚。
リサとでさえ、そういうのはなかった。することをしたら疲れてさっさと背中を向けて眠ってしまっていただけで、『安心して眠れた』って感じでもなかったな。
ありがとうな、リーネ……こんな安らぎを教えてくれて……
翌朝も、俺は、すっきりとした気分で夜明けと共に目が覚めて、
「おっしゃ! 頑張るか!」
小さな声で気合を入れつつ、完成した<剣先スコップ>で、リーネが草刈りをしてくれた庭の隅を掘り返し始めた。
が、
「くそっ、石が多いな……」
スコップを突き入れるたびに石に当って、それを手でどけてって形で掘り進めるから、ぜんぜん捗らない。
しかも、生い茂っていた雑草の根もなかなかに強敵で、手で掘り返そうなんて考えていたら早々に挫折していた気もする。
すると、そこに、
「おはようございます!」
リーネが家から出てきた。
「あの、お手伝いした方がいいですか?」
問い掛ける彼女の表情は、迷っているそれだった。水汲みと手伝いとどっちをすればいいのかと考えているんだろうなとピンと来る。
「まずはいつもどおりに水汲みを頼む。それから手伝ってくれ」
と指示した。
「分かりました!」
彼女はホッとした様子で応えて、天秤棒に吊るした桶を担いで、
「いってきます!」
と、笑顔で。
「おう、気を付けてな」
俺は、石を掘り出しながらリーネを見送った。もうすでに日常として成り立ってきてるのも実感しながら。
その一方で、
「こりゃ、家を建てる時も大変だっただろうな……」
とも呟いた。ちょっと掘り返しただけでごつごつした石がいくつも出てくるぐらいだから、家を建てるために整地した時もこの感じでいくつも石が出てきたんだろう。もし、リーネと二人で自分で家を建てようとかしてたら、今のこのボロ家さえ無理だったと思う。
そういう意味でも、この家を見付けられたのは運が良かった。
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