動かなきゃいけない時もある
<ウサギの血のプディング>を堪能して、俺は再び、<剣先スコップ>の制作に取り掛かった。リーネは、嬉しそうに残った血のプディングを口にした後、鍋を洗って、
「果実を摘みに行ってきます」
と言って家を出た。自分にできることするべきことをちゃんと理解して動いてくれる。でもそれは、俺自身が、彼女にとって、
<力になっていい相手>
でいられてるからだと思う。俺だって、ムカつく奴のために自主的に動こうなんて気にはなれない。そういう気になれなくても動かなきゃいけない時もあるのは確かだが、それだと今度はストレスが半端ないからな。
過剰なストレスがかかると、次はそれをどう発散ないし転嫁するかってことが必要になってくる。
で、自分より弱い相手、抵抗できない相手、反抗できない相手を探し出して、自分のストレス解消ストレス転嫁のためのサンドバッグにするんだ。
『人生には我慢が大事』?
嘘こけ。てめえが他人をストレス解消ストレス転嫁のためのサンドバッグにしたいがための詭弁だろうが。
『俺のストレス解消ストレス転嫁のためのサンドバッグにされても我慢しろ』
と言いたいだけじゃねえか。
まさに前世の俺がそれだった。女房や娘や部下を、自分のストレス解消ストレス発散のサンドバッグにしたいがために『我慢しろ』『耐えろ』と言ってきただけだ。
なんでそんな奴が好かれる? 大切にしたいと思ってもらえる? 労いたいと思ってもらえる?
寝言は寝て言え!
俺自身がそう思うんだから、他人も同じように思わないと考えられる道理がないよな。
ひたすら鉄を打ちつつ、延々とそんなことを考える。幸せになりたいなら、自分がまずそのために心掛けなきゃいけないよな。
前世の俺はそんなことさえ分からなかった。でも今はそう思える。思えるが、それでも失敗することはあるだろう。間違えることもあるだろう。大事なのは失敗や間違いをちゃんと受け止めることだと今なら分かる。じゃなきゃ、それを改めることもできない。
自分の間違いを認めない奴が世間から袋叩きにされるのも何度も見たじゃねえか。そこから学べよ。学べなかったから、前世の俺はあんな最後を迎えたんだ。後悔しかない人生の終わりを。
そういう<想い>をひたすら込めるようにして鉄を打ち、俺は、<剣先スコップ>を作り上げていく。
こうして日が暮れるまでには何とか形にして、そこからは手頃な枝をあてがい、さらに接合部を鎚で叩いて枝を包むように噛ませて固定。その上から蔓を巻き付けてしっかりと結合させたのだった。
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