第3話 窮地

 エレナ達を見付けた武装警察官達は彼女達に自動小銃の銃口を向けた。そして、中国語で何かを叫ぶ。その意味はエレナ達に解らないが、かなり切羽詰まった感じなのは理解が出来た。

 エレナは咄嗟に危険だと感じた。彼等は私達が武装警察官を殺したと思っている。向けられた銃口は震え、指は引金に掛かっている。撃たれると思った。

 エレナは慌てて、銃を地面に置く、そして、パスポートを開いて、「日本人、日本人」と連呼した。他の4人も慌てて、同じようにした。だが、それでも怒気を強めた武装警察官達は銃口を彼女達に向けたまま、何かを怒鳴っている。

 5人はその光景に恐怖しながらも助かる為に懸命に彼等の言わんとしている事を理解しようとした。エレナは多分、地面に伏せろとでも言っているのかと思い、地面に伏せた。とにかく無抵抗を示さねば、殺されると思った。

 だが、武装警察官の一人が恐怖の余り、固まっている美砂を蹴り飛ばした。彼女は地面に倒れ込む。それを見た八重子が美砂を蹴り飛ばした武装警察官に飛び掛る。

 「ダメ!」とエレナは思わず叫ぶ。だが、アマチュアレスリングを幼少期からやっていた八重子の素早いタックルで武装警察官が倒れる。それを見た武装警察官達の自動小銃が八重子に向けられようとした。エレナは地面に置いた自動小銃に手を伸ばす。武装警察官達の視線は全て、八重子に向いていた。その為、エレナの動きは彼等に悟られず、エレナは銃を構えた。仰向けになるようにして銃を構えたエレナは迷わずに撃った。最初の一発で八重子に銃口を向けた武装警察官が弾き飛ばされる。

 空薬莢が地面に当たり、エレナに跳ね返ってくる。熱いと感じるが、それを我慢して、エレナはとにかく撃った。

 弾倉の全てが撃ち終わり、ボルトが後退した状態になった時、4人の警察官達が倒れた。八重子にタックルされて、倒れた武装警察官は慌てて、八重子を蹴り飛ばし、銃を構えようとした。その時、エレノアが武装警察官の頭に鞄を叩きつける。それで武装警察官が倒れるわけが無いが、一瞬、体勢が崩れた。その隙にエレナは倒れている武装警察官の自動小銃を奪い、撃った。

 腹と胸に銃弾を受けた武装警察官は派手に吹き飛び、倒れた。


 多くの死体だけが残った。

 その中で泣きじゃくる美砂と蹴り飛ばされた痛みに耐える八重子、疲れ切ったように立ち尽くすエレノア、怯えて固まる麻美。エレナは彼女達を見ながら、武装警察官から装備を剥ぎ取る。

 その様子を見たエレノアが尋ねる。

 「銃なんかどうするの?」

 それにエレナは答える。

 「状況は最悪だわ。こうなったら日本大使館に駆け込む以外、安全は確保されない。テロリストも警察も私達を守ってはくれない。自分の身は自分で守るしかない」

 「ど、どうして?今回は運が悪かっただけ・・・もう一度、ちゃんと警察官に助けを求めれば・・・」

 エレナは首を横に振る。

 「残念だけど・・・状況はもそれどころじゃないみたい。さっきから周囲の銃声と爆音が酷くなっている。多分・・・内戦が始まっているわ。こうなれば、警察だって、冷静では無い。ノコノコ出ていけば、どうなるか・・・」

 エレナの言葉に残された4人は緊張する。美砂は不安そうにエレナに尋ねる。

 「じゃ、じゃあ・・・バスに残った子達はどうなるの?」

 それにエレナは一瞬、間を置いて、答える。

 「正直・・・今頃、どうなっているか解らないわ・・・兎に角、生き残る為には自分で何とかするしかない。生き延びたければ、武器を取って・・・私は自分しか守る自信しかない。あなた達を守れる自信は無いの」

 しばしの沈黙。

 「戦わないと・・・ダメなの」

 エレノアはそう呟くと落ちていた自動小銃を手に取る。

 「目的地は日本大使館よ。銃を使った事は無いと思うけど・・・撃つのは控えて、素人の射撃なんて、当たらないだけだから。あくまでも護身用だと考えてね。出来る限り、誰にも見付からずに移動するから」

 エレナの言葉に泣いていた者も怯えていた者もおずおずと死んだ者から武器を奪い、立ち上がった。


 5人の女子高生は手に自動小銃を携えた。弾倉や拳銃などを鞄に詰めて、彼女達はその場から立ち去って行く。

 彼女達は人目を避ける為に狭い路地裏を進む。

 上海の路地裏は暗く汚く、迷路のようだった。

 美砂は漂う臭いに気持ち悪くする。

 「美砂、大丈夫?」

 美砂の後を進む八重子が心配をする。

 「だ、大丈夫。それより急がないと・・・」

 先頭を進むエレナは慎重に道を確認しながら進む。

 エレナはスマホを眺める。

 「やっぱり、ネットは駄目か・・・場所が解らないわ」

 エレナの一言に全員が驚く。

 「エレナ・・・大使館の場所も解らずに動いていたの?」

 「そんなぁ」

 それぞれが絶望的な事を言う。だが、エレノアが庇うように言う。

 「何を言っているの?何もしなかったら、今頃、連れ去られるか、殺されていたかもしれないのよ?まだ、無事なだけ、エレナの判断は間違ってなかったわ。まぁ、かなり危なかったけど」

 「ごめん・・・だけど、多分、上海には日本の大使館があるはずだから・・・こうなれば、地元民に尋ねるしかないわね」

 八重子が口を挟む。

 「だけど・・・中国語解らないよ?」

 「英語なら出来る奴が居るんじゃない?中国人は商売熱心だから、色々な言葉を喋れる人が居るって聞いたわ」

 美砂の言う通りかもしれないが、それは腐る程居るだろう中国人の極僅かであった。すなわち、こんな路地裏に現れる輩にそんなまともな奴は居ない。

 屈強そうな男達が手に青龍刀や金属パイプを持って、現れる。明らかにヤバい感じの連中だった。

 それを見たエレノアが言う。

 「一番会いたくない連中が出て来たじゃないの?」

 エレナは自動小銃のコッキングレバーを引いた。

 「話が通じない連中は無視よ・・・それが出来ないなら、排除するだけ」

 その一言に残りの4人も慣れない手つきで銃のコッキングをした。

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