第2話 脱出

 目の前で爆散したバスには同級生達が乗っていた。だが、見る限りにおいて、そこには黒煙を噴き上げるバラバラになったバスの残骸しか見られない。とても、そこに生きている人が居るとは思えなかった。

 武装警察の攻撃では無いとエレナは感じた。幾ら武装しているとは言え、バス一台を吹き飛ばすような火力は有していない。だとすれば、それはあまりにも危険な事態だと感じた。エレナはすぐに窓から外を眺めた。暴徒の姿はかなり少なくなっている。だが路地などでは銃を構えた市民の姿が見えた。

 すでに暴動の域を超えたのだ。

 市民は武装をして、武装警察を相手に戦闘を始めた。

 バスが破壊されたのもここに乗っているのが日本人だと知ったから。

 だとすれば、ここに留まるのは危険でしかなかった。

 怒りに狂った彼等の攻撃目標は政府だけじゃない。外国人にも向く可能性がある。

 エレナは立ち上がる。

 「逃げるわ」

 それを聞いた同じ班の倉田美沙、篠田麻美、菊池八重子、ナターシャ・エレノアは不安そうにしている。

 「テロリスト達はこのバスに乗っているのが日本人しか居ないと知れば、平然と攻撃してくるわ。逃げ出さないと目の前のバスのようになるわよ」

 エレナにそう言われ、4人は荷物を持ち、慌てて、走り出す。それ以外の生徒達は恐怖と緊張で動けずにバスに残った。

 エレナは用心深く、周囲を眺めながら、外へと飛び出す。

 「頭を低くして、隠れながら進むわ」

 エレナは冷静に逃げる場所を選んだ。

 その時、遥か後方から女の悲鳴が聞こえた。

 エレナは悲鳴の先を見た。そこは3台目のバスだった。銃を持った暴徒がバスを襲っていた。中から女子生徒達が連れ出されている。

 不安そうにエレナの後を進むエレノアが尋ねる。

 「彼等は彼女達をどうするつもり?」

 「多分、人質・・・もしくは暴力の捌け口にするつもりかも」

 「どういうこと?」

 「彼等からすれば、日本人は暴力を振るっても構わない相手って事になってるわ。何をしても罪に問われないとすれば、やりたい放題されるって事・・・今、警察組織以外に捕まれば、ああなるわよ」

 「だったら助けないと?」

 「無理よ。あいつら・・・どこで手に入れたか知らないけど、自動小銃を持っているわ。素手で向かえば、捕まるか殺されるだけ。ああなれば、もうどうにもならないわ。とにかく、まずは警察の所まで逃げる。そして、事態を伝えるの。それが私達に出来る唯一の事よ」

 エレナはそう言って、先を急いだ。

 

 催涙ガスが残っているのか目に痛みを感じる。

 エレナ達は涙目になりながら、路地へと駆け込んだ。

 まずは警察官を探す事。

 「いい。警察を前にしたら、すぐに両手を上げて、抵抗の意思が無い事を見せるのよ。相手はこちらが日本人だとは解らない。パスポートはすぐに見せられるようにしておいて・・・これだけが唯一、助かる方法よ」 

 エレナに言われて、全員がパスポートをすぐに取り出せるようにした。

 彼女達が警察が居るだろう方角に進んでいると、突如、数人の黒い制服を来た男達が姿を現す。彼等は中国語で何かを言って、エレナ達に自動小銃の銃口を向けた。

 「警察だわ。みんな、手をゆっくりと上げて」

 エレナに言われた通り、残りの4人も手を挙げた。警察官達ははその行為を見て、安心したのか、ゆっくりと彼女達に近付いて来た。

 エレナは手にパスポートを持っていたので、彼等はそれを奪い取り、中を確認する。彼等が喋る中国語は解らなかったが、どうやら、日本人である事は理解されたようだった。彼等は銃口を下ろし、一緒に来るような仕草を見せる。

 エレナは「もう大丈夫」と4人に告げ、警察官達の後を歩き始めた。


警察官に保護され、安堵した五人だった。しかし、周囲では銃声も聞こえ、決して安全ではなかった。それにバスに残してきた同級生達の事もある。早く、彼等に助けて貰わねばいけなかった。

 エレナは彼等に同級生達の窮地を知らせる術が無い事に苛立った。言葉さえ通じれば、彼等はすぐに仲間に連絡をして、救出の部隊を出してくれるだろう。せめて、英語でも通じないだろうかと試みる。だが、警察官達はエレナの英語にも理解を示さなかった。

 エレナは意志疎通を諦め、少しでも早く、言葉が通じる人と出逢える事に期待した。そう思うと、足も速くなっていく。

 警察官達は少女達を警護するように囲んでいる。だが、突然、路地から男が飛び出した。彼の手にした自動小銃がフルオートで撃ち放たれる。

 「伏せて!」エレナは叫びながら伏せる。他の4人も慌てて、伏せる。その間に警察官が銃弾に倒れていく。突然の襲撃に訓練された彼等でも対処が出来なかった。エレナの横に瞳孔を開いた警察官の顔が倒れて来た。それを見たエレナは一瞬、驚くが、すぐに彼女は彼が携えていた95式自動槍銃に手を伸ばす。

 警察官を襲撃した男は笑いながら、倒れ込んだ少女達に銃口を向ける。勝ったつもりでいる。エレナは自動小銃の安全装置を解除して、ストックを地面に着けた状態で上に向け、男に銃口を向けた。そして、引金を引いた。

 パパパン

 銃声が鳴り響き、男の胸板が銃弾で貫かれる。彼は吹き飛ぶように背後に派手に飛び、倒れた。

 殺した。

 エレナはそれを感じ取りながら、男の仲間が他に居ると思い、警察官の身体から自動小銃を奪い取り、構えた。

 「警察官は?」

 エレナは咄嗟にそう尋ねた。それを聞いた4人の少女は倒れた警察官を眺める。

 「ダメそう。1人は息をしているけど・・・もう・・・」

 美砂が恐怖で震えながら、まだ、息のある警察官の手を取っている。それを見たエレナは険しい表情をする。

 「くそっ・・・何とか武警の指揮所に行って、保護をして貰って、救援を出して貰わないと・・・残して来た同級生達が危険よ」

 エレナは立ち上がり、周囲を確認する。すると路地から人影が現れた。咄嗟に彼女は銃口を向ける。その動きは一分の隙も無かった。

 だが、そこに姿を現したのは武装警察官達であった。

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