少女よ銃を取れ

三八式物書機

第1話 最悪の修学旅行

 私立美星女子高等学校では毎年、二年生は修学旅行がある。

 例年、修学旅行は海外となっており、最近は経済発展が著しい中国や韓国となっていた。それらは当然ながら、学校と旅行代理店によって計画されている事だ。

 しかしながら、今回の修学旅行は直前になり、旗色が悪くなりつつあった。

 中国では経済が一部、破綻したのではと言う憶測が世間に流れ始めていた。

 無論、それはあくまでも憶測でしか無く、決定的な情報は無かった。

 外務省の危険レベルに変更が無かったとし、修学旅行は予定通りに決行された。


 成田空港には灰色を貴重としたブレザーの制服姿に旅行鞄を持った女子生徒73人が集まった。

 シームレス眼鏡に腰まである髪を一本に編んだ文系な感じの麻倉エレナは2組の列に並んでいた。

 友達の倉田美沙、篠田麻美、菊池八重子、ナターシャ・エレノアと共に。

 中国の動向とか彼女達が気にする事は無かった。あくまでも楽しい海外旅行でしか無い。僅か三日間、その多くは観光施設とバス、ホテルだけ。危険など遭遇するとは誰も思っていなかった。

 飛行機に乗り、彼女達は上海へと飛び立った。


 上海浦東国際空港に到着する。思ったよりも人の姿は無く、ガランと広い空間だけがそこにあった。それは到着した生徒達も不気味に感じた程だった。

 目立つのは自動小銃を持った兵士の姿だ。武装警察と呼ばれる人々だが、何も知らない日本の女子高生には兵隊にしか見えなかった。

 彼等の険しい目に怯えながら、彼女達は旅行会社が用意したバスに乗り込む。

 観光バスは3台。

 2組のエレナ達は2台目に乗り込んだ。

 エレナは同じ班の美砂の隣に座った。美砂は不安そうにエレナに声を掛ける。

 「さっきの人達、銃を持っていたね」

 「うん・・・なんか。想像していたのと違うかな」

 「空港の中もガランとしていたもんね」

 バスは高速道路を走り、市街地へと入る。最初にホテルに到着する為だ。

 高速道路に車の数は少なく、予定よりも早く、市街地へと入った。

 だが、途端に渋滞に巻き込まれた。

 何か騒ぎがあるのか、街中は騒々しかった。

 周囲に聞こえる怒号に生徒達は不安になった。

 ガイドがバスのカーテンを閉めろと命じた。エレナ達は慌てて、カーテンを閉める。そして、ガイドは声を潜めてと言う。何が起きているのか誰も解らない。教師はガイドに何かを訪ねている。ガイドはかなり緊張した様子で教師に何かを告げていた。

 すると、何処からか破裂音が響き渡った。同時に怒号は更に激しくなり、バスが揺さぶられる。カーテンを閉めているので、外の様子が解らない生徒達は悲鳴を上げる。教師は落ち着けと言うばかりだ。

 

 エレナはスマホを眺める。

 しかしながら、ネット接続は途絶えていた。後部座席の八重子が聞いて来た。

 「ねぇねぇ、ネットが見れないよぉ」

 エレナは冷静に答える。

 「そうね。これだけ人が集中しているから、回線が混雑しているか・・・もしくは、根本的に接続を禁止されている可能性があるわ」

 隣に座る美砂が不安そうに尋ねる。

 「接続が禁止?」

 「そうよ。ここは中国だから。ネットは自由に制限が出来るわ。街の真ん中でこれだけの騒ぎとなれば・・・多分、これは暴動だと考えるべきね。中国政府はそれが国外に漏れるのを恐れているわ」

 「暴動って・・・私達、どうなるの?」

 「ジッとしているしかないわね。下手に外に出れば、暴徒に何をされるかわからないし、警察に捕まる・・・攻撃をされる可能性もあるわ」

 エレナの一言に友達だけでなく、周囲の生徒達も怯えた。

 「とにかく・・・今はジッとして、警察が暴徒を鎮圧するのを待つの。それが正しい判断よ」

 エレナは冷静にネットに接続が出来ないスマホを眺めた。


 何度か爆発音や破裂音が響いた。その度にバスの中は悲鳴が聞こえた。

 何人かは泣いているのだろう。

 不幸にもバスの前にはバスが居るので、唯一の視界である場所から得られる情報は少ない。だが、それでも多くの人が停車している車の隙間を縫うように駆け回っているのが解る。突然、フロントガラスが真っ白い煙に覆われる。

 エレナはそれを見て、叫ぶ。

 「すぐに空調を内気循環にしてっ!」

 それを聞いたガイドがすぐに運転手に怒鳴る。それは中国語なので、よく聞き取れなかったが、多分、エレナが怒鳴った事を言っているのだろう。運転手は慌てて、空調を弄っていた。

 「な、なに?」

 エレナの怒鳴り声に驚いた美砂が尋ねる。

 「あれは多分、催涙弾。空調が吸ってしまうと、車内に入り込んで来るわ」

 「そんな・・・」

 「安心して、催涙弾が撃ち込まれたのなら、この周囲から暴徒は居なくなるわ。そうすれば、警察が鎮圧するのも時間の問題になる。我慢して、待って居れば、ここから解放される」

 「そ、そうなの?」

 「当然よ。外交問題にしたくないのだから、私達の安全は最優先に護られるはず」

 エレナはそう諭し、不安がる生徒達を落ち着かせた。しかしながら、彼女自身は表情とは裏腹に冷静では無かった。

 

 阿鼻叫喚とはこのことだろう。催涙ガスで多くの人々が悲鳴と嗚咽を漏らし、逃げ回っている。投石なのか、時折、バスに何かが当たる。それはガラスに当たり、ヒビが入った。生徒は悲鳴を上げた。

 エレナは頭を同級生達に頭を伏せる事をアドバイスする。投石もそうだが、事態が悪化すれば、武警がゴム弾や実弾の使用も考えられるからだ。比較的座席位置の高いバスの場合、流れ弾が飛び込む可能性は高く、危険だった。

 エレナはこのまま、暴動が鎮圧されるのを切実に願ったが、事態は最悪の状況へと向かう。

 激しい銃声が鳴り響き出し、バスに何発か弾丸が飛び込んだ。生徒達はパニックを起こす。何人かはバスから下ろせと前に詰めかける。ガイドと教師はそれを食い止めた。だが、その時、目の前に停まっていたバスが爆発した。エレナ達が乗っていたバスにも強い衝撃が襲い、フロントガラスが砕け散り、破片が飛び込んだ。エレナが次に前を見た時、バスの前に居た人々が吹き飛ばされていた。多量の血が飛び散り、ガイドと教師の身体は千切れていた。

 生徒達から悲鳴が上がる。

 だが、これは地獄の始まりでしかなかった。

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