第三十五話 ミツキの家に行こう
あれから一週間が経過した。
必死の創作も空しく、マオを見付けることは出来なかった。
◇◆◇◆◇
「はぇ~実際見ると広いなァ!」
「むぅ……迷子になりそう」
レフィとアユムはミツキの家にやって来た。
この一週間、マオの一件で一番動揺していたのがミツキだった。
普段は大人しいミツキであったがマオの事になると異常なほど落ちつかなくなり、一種の錯乱状態になってしまっていた。
そんなことが続いてしまい心労で倒れたミツキは学校を休んだのだ。
「自慢じゃねェけどウチも大概デカイが、工場ってなると敷地がバカに広いのなぁ……」
ミツキの家族が経営する右京重工の本社兼工場にアユムは圧倒される。
二人はどこが入り口なのか一時間ほど探してやっと正門に辿り着いたのだ。
「むぅ……」
「レフィ。見舞い、なんか持ってきたか?」
フルーツの盛り合わせが入ったバスケットを抱えながらアユムは言うが、どうみてもレフィは手ぶらだった。
どうしたものか、と考えるアユムの横でレフィは監視カメラに向かってピースしたり変なポーズで謎のアピールをしている。
「…………どうするよレフィ。せっかく見舞いに来たってのにさ」
「ミツキは病気じゃない。これは気持ちの問題」
「見た目によらず脳筋かよ、オマエ!?」
「そんなことより早く入ろ」
「いや、そうだけども……いいんだろうか」
人がいる気配はないが勝手に進入してもよいものか、と門の前で二人がまごまごしていると後ろからミツキが現れた。
「お、ミツキィ!?」
「むぅ……出ても大丈夫なの?」
「そっちは工場だから入っちゃダメだよ。住んでる家はこっち」
手招きして二人を誘導するミツキ。
工場とは反対方向にある実家へと案内する。
「よくアタシたちが来たってわかったな?」
「お兄ちゃんから学校の誰か、カメラの前で変なことしてるって連絡あったから……」
アユムはレフィをじっと見る。
しかし、そんな視線も無視してレフィはミツキの手を取って走り出した。
「ミツキ早く行こ」
「あ、おい待てよ二人とも! アタシを置いていくな!」
それから5分後、普通の民家が立ち並ぶ場所にひっそりと建てられた右京家に到着する三人。
大会社の豪邸、を想像していたレフィとアユムだったが実際はの家は大豪邸と言うわけではなく、とても普通でよくある二階建てで昔ながらの日本家屋だった。
「レフィ、昭和レトロも好き」
「昔はもう少し大きい家だったんだけどね」
「へぇ……いい木使ってんじゃん。お邪魔しまーす」
靴を脱ぎ、三人は少し急な階段を上がってミツキの部屋に入る。
棚の本や飾られているぬいぐるみが綺麗に整頓された、ミツキらしい几帳面な部屋だった。
「マオとは幼稚園に入る前から一緒で、家族ぐるみの付き合いだったの」
ミツキは一冊のアルバムを取り出し、ベッドの上に広げて二人に見せる。
四、五歳頃から始まり、幼稚園、小学校まで五冊もあった。
「中学がないのは何でだよ?」
「それは……なんでかなぁ。あんまり飽きちゃったのかな」
歯切れの悪い言い方をするミツキ。
「……ミツキ、お姉さんの写真が無い。なんで?」
アルバムを次々と早いスピードでページを捲りながらレフィが言う。
「姉さん? 姉が居るのかァ?」
「れ、レフィ……どこでそれを?」
「この前トウカがミツキと話してた」
三日前。
戦いが起きる前の神社でのマオとトウカとミツキの会話を、レフィは影から盗み聞きしていたのだ。
「仲良くしないとダメ」
「…………そんなこと言われたって、もういないもの!」
思わず大きい声を出してしまいミツキはハッとする。
「ごめん……」
「お、おう。気にするな?」
アユムは言った。
「お姉ちゃんと、マオは……凄く仲が良かったんだ」
そう言うとミツキは勉強机の上に伏せられた一枚の写真を手に取る。
「今でも後悔してる。お姉ちゃんとの写真を捨てたこと」
小学校の入学式、一年生なった幼いミツキと姉アカリが校門の前で並び笑顔で写っている姿。
それがミツキが所有する唯一残る姉と撮った最後の写真だった。
「私が先にマオを好きになったのに。お姉ちゃんは鈍感で、マオがお姉ちゃんを好きな事を全然気づいてなかった……!」
ミツキは唐突、写真を破ろう手にかけた瞬間、部屋に現れた四人目の少女がそれを止めた。
「そうやって嘆くだけか、ウキョウ・ミツキ」
「カミジョウ……さ」
パァン、という軽い音が静かな部屋に響く。
トウカは写真を取り上げて、ミツキの頬を打った。
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