ぼくと幼馴染と

第16話 「……──デー、と?」

 月曜日の1時限目前のこと。


「──それで、結局どうなったんだ? カフェデートのこと」


 目の前の友達……奏多は、僕の席の前に立ったかと思えば、そんな質問を投げかけてきた。


「デートじゃないよ。まぁ……失敗ではなかったかな。音羽さんはどう思ってるのかよく分からないけど、多少気まずくはなってもいろんなこと話せたし。楽しかったよ」


「それは良かった。それにしても、この唯人が……なぁ」


 子供の成長を目の当たりにしてほっとする親のような生暖かい目線でこちらを見てくる。


「奏多は僕のお母さんかっ!」


「ははっ。……あっ、デート前に言ったよな、俺! 相手、どんな人なんだ?」


「……その、笑わないなら見てもいいけど」


「笑……う? んなわけ無いだろ。というか人を見て笑うとか失礼すぎんだろ」


「じゃあ……まぁ」


 そう念を押すと、スマートフォンを取り出して音羽さんから送ってもらった写真を画面に映し出す。そして、奏多の前に向けた。


「ほぅほぅ、どんなやつ……──え」


「……何?」


 ニヤニヤしながらスマホを覗く顔が固まる。何かあったのだろうか?


「──天使ぃぃぃぃっ!?」


 多分、驚きが前に出すぎてしまったのだと思う。写真を見た途端、周りの目を気にすることなくそう叫んだのだ。


 「え、なになにー?」「天使って女子校の?」などといろんな言葉が飛び交う。


 違う学校だというのに、天使という言葉が一度聞こえてきただけで話題は天使一色。その、奏多が前にあったという天使の影響力がどれほどのものなのか感じさせる。


 ……いや、待て待て待て。


 どうして叫んだんだ、それも今。考えられることは……2つ。1つは、その前会ったという天使とは関係なく、ただ単に音羽さんが可愛かったという可能性。僕も音羽さんは天使のように可愛いと思うし、その可能性は十分にある。


 もう一つは……その天使という人と、音羽さんが、


 ──同一人物である可能性。


「……あっ、すまん。でも、まさか天使のことを興味なさげだったってのに……話す、それどころかデートすらしてんのか」


「だからデートじゃないって」


 ……奏多の言い分からして、後者のほうが正しそうだ。まさかあの音羽さんが、天使とみんなから慕われている人なのだったなんて。


「……──デー、と?」


 割って入るように声。


「おっ、天音か」


 よっ、と声をかける奏多。おそらく奏多の声に反応してか天音が来たようだ。僕も声をかけると、天音から「おはよ」と挨拶が返ってくる。


「それよりその、デートってどういうこと? ねぇ奏多、天使って叫んだのってなんで?」


 純粋な目でそう尋ねてくる。けれど、その目にはどこか不安そうな感情が混じっているようにも見えた。


「あぁー、えーっと……」


 奏多は誤魔化そうとしているらしい。


 多分、というか絶対に僕の為なんだろうな。勝手に自分のことを広められるというのは嫌なことだ。それを知っているからこそ、奏多は誤魔化そうとする。やっぱり優しいや、奏多は。


 ……でもまぁ、天音は幼馴染だし、天音になら別にいいか。


「んー……簡単に言うと、最近いろいろあってその天使?なのかなっていう人と仲良くなったって話だよ」


「……え!? て、天使と!?」


「しっ! できるだけ声を抑えて」


 できるだけ聞かれるのはごめんだ。僕のことを知っていて信頼してくれている天音ならまだしも、僕を知らなければ変な誤解を産んでしまいそうで怖いからね。


「あっ、ご、ごめん……っ、まさか唯くん、天使と仲良くなったんだ……」


「まぁ……あくまで僕の主観であって、音羽さんの方がどう思ってるかは分からないけどね」


「……そ、そうなんだ」


 天音が見せたのは、裏に何かしらの感情を隠しているようなそんな笑顔。それが何を指しているのか、僕は今はまだ知らなかった。

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