(22)魔力持ちの現状
「魔力、ですか? 私、そんなものを持っているんですか? ちょっと信じられないんですけど……。それに、どうしてそれが、ルーファさんに分かるんですか?」
もう最後までしらばっくれるしかないと、アメリアは腹を括った。しかしルーファが、あっさりと追撃してくる。
「それは、俺も魔力持ちだから。とは言っても俺の魔力は魔術師として認められるほどではないし、魔力探知と防御に特化してるんだよな」
「そうなんだよ。それでごく稀に、魔力持ちと推察される子供の判定に行ったり、適切な指導や保護がされなくて魔力暴走を起こした現場に動員されたりしてるんだよね」
ここでエストも会話に加わり、アメリアは強張った表情のまま問いを重ねた。
「そ、そうなんで、すか……。あの……、魔力暴走って?」
それにルーファが、冷静に説明を加える。
「代々、ある程度魔力がある家系が幾つかあって、そこから割と魔術師になる人が出る。だが偶に、先祖返りなのか両親含めた近親者に魔力持ちがいないのに、魔力持ちで生まれる子どもが一定数いるんだ。それで徐々に魔力が発現するなら周囲も気がつきやすいけど、ある程度成長してからいきなり魔力が発現するパターンもあってね」
「ああ、それで……。無意識に魔力を行使してしまうと……」
「その通り。それで通常なら子供に魔力発現らしい異常を発見したら、直ちに魔術師
聞きなれない言葉を耳にしたアメリアは、そこで思わず尋ねた。
「あの……、魔術師塔ってなんですか?」
「親が育てるのを放棄した魔力持ちの子どもを集めて、教育を施すところだよ」
「……え?」
そこで一瞬わけが分からないといった顔になったアメリアは、次に怒りを露わにしながらルーファに詰め寄る。
「親が育てるのを放棄したって、どういう事ですか? だって、それまで普通に、一緒に暮らして育てていたんですよね? どうして子どもに魔力があるだけで、あっさり捨てるんですか!? その子が可哀想じゃないですか!!」
「それは……」
咄嗟に言葉に詰まったルーファの代わりに、エストが溜め息まじりに彼女に言い聞かせる。
「アメリアちゃん、それは仕方がないよ。大抵の人間は、未知なものに対しては恐怖心が先にくる。寧ろ、身近に魔術師がいなくて魔術師塔がなにかも知らないのに、そんな子どもが可哀想だなんて発言が真っ先に出てくる君の方が珍しいよ?」
「それは……、だって、人として当然だと思いますが……。大抵の方は違うんですか? ルーファさんはどうだったんですか?」
その問いかけに、ルーファは小さく笑った。
「そういう意味では、俺は幸運な方だったかな? 先祖や親戚にポツポツ魔力持ちが生まれる家系で、発現の兆候が出た時点で判定して貰って、魔術師組合が派遣した魔術師からきちんと指導を受けた。元々大した魔力じゃなかったし、すぐに制御できるようになったよ」
「そうですか……」
「魔術師塔に入るくらいの子どもは、魔力が強い事が多くてね。かなりの割合で、魔術師として魔術師組合に所属して働くことになるんだ。そしてそういう生い立ちだから、色々正確に難がある者が多くて……」
そこで思わずと言った感じで、ルーファが物憂げな溜め息を吐く。そんな彼を軽く指さしながら、エストが補足説明した。
「魔術師と外部の者との揉め事が生じると、こいつが調停役に引っ張り出される事が多いんだよ。なにせ、今の魔術師組合の組合長が、こいつの指導役だった関係で」
「お疲れ様です……。それで私が魔力持ちだと、会った時に気がついたと……」
「ああ。それで正直、判断に困ってね」
「ええと……、『困った』とは?」
何やら嫌な予感を覚えながら、アメリアは話の先を促してみた。するとルーファが真顔で続ける。
「小さな子どもであれば、これから魔力が増大する可能性があるからきちんと保護するか訓練する必要があるが、君は十分成長しているし。この年齢で感じる魔力が僅かなら、経験上これから増大する可能性がないか、ある程度訓練を受けてきちんと制御できている状態なんだ。だから様子を見ていたんだが、身近に魔術師はいなかったみたいだし、本当に先祖返りでほんの少し魔力がにじみ出ている程度なんだろうな」
「そ、そうですね。きっとちょっとした先祖返りなんでしょうね」
「だから魔術師組合に、君の事を連絡する必要はないと判断した。危険性も問題も無いだろうし」
「あ、あははははっ! 危険性とか問題とか、あるわけないじゃないですか。今まで、何も不自由はなかったんですから。ねえ、ラリサ?」
「え、ええ、そうね。微塵も何もなかったわね!」
急に話を振られたランデルも、笑顔を取り繕って応じる。そんな二人を見て、ルーファは如何にも安心したように笑った。
「それを聞いて安心した。これも何かの縁だし、偶に様子を見に来るよ。万が一、魔力について困ったことがあったら、すぐにギブズ人材紹介所に連絡してくれ」
「あの……、まさかギブス人材紹介所って……」
そこはかとなく嫌な予感を覚えたランデルが尋ね返すと、エストが笑顔で告げる。
「あ、ラリサさん、やっぱり勘も良いですね! そこ、魔術師組合の外郭組織の一つなんですよ」
「…………」
ピキッとアメリア達の笑顔が固まると同時に、店のドアが開いて客が現れた。
「こんにちは」
「あ、エミリーさん、いらっしゃいませ!」
反射的に接客モードに入ったアメリアを見て、ルーファはエストの腕を引きながら歩き出す。
「長居して悪かった。じゃあ、また来るから。ほら、エスト。行くぞ」
「おい、引っ張るなよ! じゃあラリサさん! また来ますね!」
「……………」
挨拶に言葉を返すのも忘れたまま、アメリア達は呆然と二人を見送ったのだった。
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