161話 旧信濃国人衆と武田家の因縁
飯山城 直江景綱
1566年夏
「政頼、武田に動きは無いのだな?」
「はい、現在は川中島より近い
殿はここ飯山城の城主である
儂はてっきり川中島で再び戦をするものだと思っていたが、やはり四面楚歌。武田は随分と慎重であるらしい。
「大将は真田幸隆で間違いないかと」
「信玄ではないか・・・。わかった、では我が直々に信濃を奪還いたそう。明日には川中島まで兵を進めるぞ」
「かしこまりました」
儂も政頼殿にならって頭を下げる。殿は何も言われず部屋から出て行かれた。
「それにしてもまさか殿がこちらに来られるとは」
「それは儂も驚いておる。てっきり上野の安定化を優先させると思っておったわ」
政頼殿が意外がるのも無理はない。上野は義父となった上杉憲政様の旧領である。今でも旧臣である長野殿らが北条や武田の猛攻を凌いではいるが、あまり刻はないようにも思える。
此度の武田包囲戦において上野方面の大将を任されたのは、表面上憲政様になっている。
だが仕方なかったこととはいえ、上野を捨てて越後へ逃れた御方を上野の旧上杉家の者らが受け入れるか・・・。
一応景家殿を付けてはいるが、儂の不安は尽きぬ。
「
「儂も同感じゃ。あやつは一度殿を裏切り、武田に内通しておった。確かに越後には未だ殿を越後の主と認めぬ者らが大勢おるが、他国になびいた者はそうそうおらぬ。数少ない例があの男であるからな」
たしかに将としても、政に関しても才があるのは認める。だからこそ殿に厩橋城を任せられ、関東方面の上杉方を任されておるのだ。
だが、だからといって今後裏切らぬとも限らぬ。
あの地は北条とも近く、武田とも近い。
裏切られれば、
「景綱殿のように忠義を誓われる御方はあまりにも上杉家中には少ないです。大部分を統治下においているというのに、上杉家が安定しないのはそこに理由があるのでしょう」
「政頼殿はどうなのだ?その言い方だと、忠義を誓っていないように聞こえるが」
本気で言ったわけではない。この男が裏切るとはあまり思えぬ。というよりも、武田の信濃侵攻で領地を奪われ、殿を頼られた方々は比較的よく尽くしてくれておる。
殿が信濃の奪還を約束され、事実何度も武田と戦をしていることが信用を得たのであろう。
かくいう政頼殿もその1人。
おかしな話ではあるが、信濃の元国人領主の方が越後の者らより信じられるのだ。
「私は殿にとても感謝しております。城を任され、さらにそれが対武田の前線という要所である。そのように信じていただければ気合いも入りましょう」
「それを聞いて安心したわ。それでかつてしのぎを削り合った義清殿はいつ到着されるのだ」
あまりの優遇具合に義清殿は涙を流して喜ばれた。
こういった行いも信濃衆をまとめることが出来た要因であろう。
「明日には着陣されると伺っておりますが・・・。何か義清殿に御用でしたか?」
「いや、そうではない。義清殿や政頼殿にとって信濃の奪還は最たる望みであろう。それを目に出来ぬのは気の毒だと思ったまでよ」
「随分と自信たっぷりにございますな。相手は何度も殿とこの地を争っている武田信玄ですぞ?この戦で決着がつきましょうか?」
「此度は北条や今川と連合で攻めるのだ。これで武田の土地を削れねば、信濃の奪還は夢のまた夢よ」
大きく頷いた政頼殿は、ようやく目の前に用意された茶を飲み干した。
強く畳に置かれた様子を見るに、やはり気合いがよく入っているのであろうことがわかる。何度も言うが儂らよりも、この戦に気合いが入っているのは信濃にかつて土地を持っていた者たちだ。
上杉家の威厳を守るためには、我らもこの者らと同様に気合いを入れねばならぬ。
それが殿の名をあげる、そして関東管領職としての地位を周辺の大名らに認めさせる唯一の方法なのだ。
「そろそろ儂も行く。殿のことをほったらかしにはしておれぬ」
「ではまた明日お会いいたしましょう」
儂は政頼殿と別れて、どこにおられるかも分からぬ殿を探すこととした。
※【急募】
今川氏真目線の投稿における早川殿の呼び名。
史実で名があるのであれば教えてください!なんと呼べば2人の会話が違和感なく進むのかかなり困っております。
早川殿でも構わない。またオリジナルでの名でも良いのであればそれで書きます。
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