三河平定戦
第57話 第一次三河平定戦
東条城 松平元康
1562年春
「本多忠勝様より伝令!上ノ郷城を包囲し、降伏の使者を出されました。今は兵を休息させつつ、鵜殿長照殿からの返事を待っている最中にございます!」
伝令兵は息を切らしながら私に報告した。
どうやら先鋒を任せた忠勝は無事城の包囲に成功したようで一安心だ。
「わかった。忠勝に伝えよ。後続の部隊が合流した後、一部に包囲を任せ長沢城を攻め立てよ」
「はっ」
部屋より飛び出ていった伝令兵を見送りもう一度息を吐く。これまで何度も三河にある今川配下の城を攻めてきたが、今回でなんとしても全地域より今川の影響力を排除せねばならぬ。
機会は今しかないのだ。信長様が美濃斎藤と和睦を結ばれた。
公方様はどうやら私を討とうとされたようだが、信長様と私はすでに同盟を組む間柄。信長様の一存で極力同盟関係を知らせずにいたのが功を奏したのだ。
和睦の経過をこと細かに教えていただいた故、此度の東進が可能になった。氏真様は一大事に必ず主だった家臣を今川館に集められる。そうなれば東三河の防御は必ず手薄になる。遠江まで獲れずとも三河の平定はなるであろう。
此度の作戦を成すためにはいかに城1つに時間をかけないかが重要なのだ。無駄な戦闘すらも避けたいところ。
「私もそろそろ出るとしよう。吉田城の落城は目の前で見なければならない。吉良殿、我らが背後のことよろしく頼みますぞ」
「お任せくだされ。東条城から上ノ郷城間には要所に兵を配置しております。不審な者を見ればすぐにかけつけるよう用意を整えておりますので、安心して三河統一に専念してくだされ」
東条城主である吉良義安殿は自信満々といった様子で私を見ている。心配はしていたが、この周辺の地理の把握は私よりも出来ている。
私は何も心配せず忠勝の後を追っていくとしよう。
「数正、参るぞ」
「かしこまりました」
数正と共に東条城より兵を率いて出陣した。天気は雨で道も悪い。
夜かと思うほど周りは暗く、そして不気味な雰囲気であった。まるでこの平定戦の先行きを表わしているように・・・。
その後、しばらく馬に乗って東へと進んでいた。直に上ノ郷城に到着するであろう。すでに忠勝は上ノ郷城を発ち、長沢城へと向かったはず。
上ノ郷城が降伏を受け入れていればすんなりと我らも長沢城へと向かうことが出来るのだがな。
「殿、伝令にございます」
前を馬で歩いていた数正が私のそばにやってくる。伝令か、忠勝か、それとも上ノ郷城か。どちらであっても良い報せだと良いのだがな。
「上ノ郷城の鵜殿長照殿、降伏の使者を一喝したようにございます。これより城攻めの支度をいたします」
「・・・誰が城攻めの指揮を執っておる」
「
「急ぎ戻って止めさせよ!今は兵を削ることはなんとしても避けねばならん!」
「はっ」
伝令は急ぎ馬に乗りかけていった。しかし何故城攻めを決意したのだ!軍議でも言ったはずであろう。我らの敵は三河の中だけでは無いのだ。確かに時は早ければ早いほど良いが、それよりも兵を死なせないことの方が大事なのだと何度も言ったぞ!
気がはやったか、それとも功績ほしさか・・・。忠勝に任せて別の者を先行させた方が良かったのではないか?
「叔父上が勝手をいたしました」
「・・・よい」
「ご気分、すぐれませぬか?」
「問題は無い。しかし引っかかることがある」
「引っかかることにございますか?」
数正の言葉は一切私の頭に入ってこない。何かを私は見落としていないか?何かとても重要なことを・・・。
そうこうしている内に上ノ郷城へとたどり着く。本陣をおいている場所に入ると、指揮を任せていた家成が平伏して待っていた。
「弁解はあるか?」
「三河統一に目がくらみもうした。いたずらに元康様の兵を損なおうとしたこと、まことに申し訳ありませぬ!」
濡れた地面に額を何度もたたきつけ、私に謝罪し続ける家成。どうすれば良いか迷った。
家成は間違いなく私の命に背いた行動をしようとしたのだ。それは間違いなく、我らの力を削ぐ行いであった。しかしそれは全て私の三河統一に対する思いをくみ取ったからである。
これ以上、家成にこれを続けさせると間違いなく包囲している兵の士気は落ちるだろう。
「わかった。もうよい、家成よ。此度のことは今後挽回してくれ」
「かしこまりました!」
家成は本陣より出て行った。それにしても上ノ郷城は降伏せぬか。
やはり時間がかかりそうか、先行隊と密に連絡を取る必要があるな。
「数正、人を出せるか?」
「どちらに出されますか?」
「岡崎に残っている忠次に文を渡したい。それと長沢城へと向かった忠勝にも連絡を頻繁に寄越すよう伝える」
「かしこまりました。忠勝殿への伝令はすぐに出しましょう。岡崎城へは殿の用意ができ次第ですな」
「頼む。どうせこの城が落ちるまで我らは動けないからな」
城内の灯火で不気味に光る上ノ郷城を見上げると、この三河平定の大変さを改めて感じる。邪魔な介入がある前に一気にかたを付けなければならぬな。
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