第31話 魔族討伐のススメ

 こうして俺たちはモンドリアーン子爵領内でイグドラシルの木材を量産することになった。さすがにしゃべる個体を切り倒すのは気が引けたので、ある程度育ててからは挿し木にさせてもらった。これなら意識を持たないイグドラシルの木が育てられる。

 初めからそうしてくれ。もしかして、アレは嫌がらせだったのかな?


 殿下からの勅命であったので、両親にも大いに手伝ってもらった。幸いなことに俺がかなりの魔力を提供したため、イグドラシルの木はスクスクと成長し、次々と木材に加工されていった。


 挿し木を提供してくれるイグミ二号、三号……たちも喜んで力を貸してくれている。そしてついにはイグドラシルの実を提供してくれるようになった。

 イグドラシルの実は滋養強壮の果物として高値で取り引きされる商品に育っていった。それによってモンドリアーン子爵家はかなりのお金を稼ぐことができている。これはうれしい誤算だな。イグドラシルの実御殿が建つ日もそう遠くはないだろう。


 我が家総出で準備をしている間、もちろん殿下たちも密かに行動を開始していた。油断は禁物。だが、どうやら国が本気を出したらしく、これまで以上に情報が集まっているようだ。


 今までは半信半疑で鈍い足取りだったのが、今では見違えるようにイケメン男爵令息の行動をマークしているらしい。イケメン男爵令息に仕える人たちが何とか外に露見しないように頑張っているが焼け石に水。隠し通せるはずもなかった。


 出された手紙はどこまでも追跡され、その中身の情報を収集した。イケメン男爵令息がどことつながっているのか、一体何をたくらんでいるのか。それらもろもろの情報が集まりつつあるとのことだった。


 これは頑張ってイグドラシルの木材を集めなければならないな。急いで木材を集めるだけでなく、それを使った建物も建てなければならない。何でも殿下はお城のダンスホールをイグドラシル製のものに切り替えるつもりのようである。


 それってかなりの木材がいりそうな気がするんですけど。そんな話を殿下にすると、「追加のイグミの子供がいるか?」と聞かれたので、全力でノーサンキューさせてもらった。

 いらぬ。あんな気持ち悪いマンドラゴラの大群など、もういらぬ。あの日から数日、イーリスは寝込んだんだぞ? 


 どうも悪夢を見るようになったらしく、しばらくの間は一緒に寝ていたのだ。……あれ、もしかして、そっちの方が良くないか? どうしようかな? とイーリスの方を見ると、すでにあのときの光景を思い出したのか、青い顔をしていた。……却下だな、却下。



 その日、俺たちはまたしても殿下に呼び出されていた。

 集合場所として指定された広めの応接室には、殿下だけでなく、その他大勢の騎士や魔導師たちの姿があった。もちろん国王陛下の姿もある。一体何が始まるんです?


「皆、そろったようだな」


 国王陛下が周囲を見渡すと、その場にいた騎士と魔導師たちが深くうなずいた。何だか良く分からんが、俺たちも知ったフリをしてうなずいておく。

 協調性が大事。これ、長いものに巻かれるときの鉄則。


「それでは報告を頼むぞ」

「ハッ!」


 国王陛下の指示と共に一人の文官が手元にある紙の内容を読み始めた。それによると、どうやら例のイケメン男爵令息に化けている魔族についての情報が十分に集まったようである。


「例の建物はどうなっておる?」

「ハッ! モンドリアーン子爵家の協力によって、すでに準備は整っております」


 それを聞いて国王陛下が満足そうにうなずいた。例の建物とは王宮内で最も大きなダンスホールのことである。

 今の話だと、どうやらそのダンスホールの改修作業が滞りなく終わったようである。そのダンスホールの壁面は、イグドラシルの木材によって作り変えられることになっていたのだ。


 これで魔族を無力化することができる。ダンスホール内で戦うことができるのならば、こちらにも勝機があるだろう。魔族が外で暴れるよりかはずっとマシである。


「あとは魔族がこちらの動きに気がついていないか、だな。その点はどうなっている?」

「はい、どうやらこちらのことを侮っている様子です。魔族は指示を出しているようですが、別に失敗しても構わない、そのように考えているようです」


 国王陛下の顔が渋いものになった。魔族にとっては人間など歯牙にもかけない存在なのだろう。そのことを忌ま忌ましく思っているようだった。


「そうか。油断してくれているのならば、それはそれで幸いだな。魔族を倒すことはできそうか?」


 国王陛下が騎士と魔導師たちを見た。しかし、返事はなかった。その中で、魔導師の中でも最も荘厳な服装をしている人物が口を開いた。もしかすると、魔導師団の長なのかも知れない。


「文献を調べましたところ、魔族には並大抵の魔法は効きません。しかし、火力の高い魔法を使うとなれば、建物が壊れてしまいかねません。確実に仕留めるのならば、魔族を拘束する必要があります。それができれば、魔法で何とかなるかも知れません」


 彼の意見に国王陛下がうなった。そこまでやっても確実に勝てるわけではないらしい。これは思った以上に厄介のようである。

 続けて騎士団長も意見を述べた。


「魔族には物理的な攻撃が効きません。何せ、実体がない魔力の塊のようなものですからね。聖剣ならばダメージを与えられるとのことでしたが、残念ながら聖剣が手元にありません。かと言って、他国から借りるわけにも行かず……」


 そりゃそうだ。聖剣を貸してくれ、何て言われたら何事かと思われるよな。それにその国にとっても切り札となる聖剣を貸してくれる可能性は極めて低いだろう。


「そうか……」


 国王陛下が黙ってしまった。これはまずいことになったぞ。せっかく追い詰めても魔族が倒せなくてはあまり意味がないからな。

 国王陛下だけではない。その場にいた全員が口を閉ざした。一人を除いて。

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