第12話 アウデン男爵家へ
楽しい日々はあっという間に過ぎて行く。
イーリスが来てから早くも三日が経過した。今日はアウデン男爵たちが自分の領地へと帰る日だ。
「それでは父上、行って参ります」
「しっかりと送り届けるのだぞ」
「任せて下さい」
玄関で父上と母上に挨拶を交わす。当初の予定通り、俺はアウデン男爵たちを領地まで送り届ける任務に就くことになった。
これは相手方の家に俺を紹介するためのものでもあり、両家のつながりを対外的にアピールすると言う側面もある。
前回のブラックドラゴン退治のときは、アウデン男爵家に挨拶することなくとんぼ返りする羽目になってしまった。そのため今回は、しっかりとイーリスの家族に挨拶することになっている。
あのときアウデン男爵家まで行っていれば、空間移動の魔法で瞬時に送ることができたのだが、生憎と行ったことがあるのはアウデン男爵領の中でも辺境の地。ここからなら、まっすぐにアウデン男爵家に向かった方が早かった。
アウデン男爵領までの旅にはもちろんミケも加わっている。「守護精霊と主は一心同体。離れることはない」と言うのがミケの説明である。さっき初めて聞いた。
それでなくても、最近はイーリスのことをライバル視しているのか、ミケがやたらと俺の布団の中に潜り込んでくる。ミケの苦手な風呂にまで、俺と一緒に入ろうとするのだから困ったものだ。
ミケを小脇に抱えて馬車へと乗り込んだ。すでにイーリスとアウデン男爵は乗り込んでいる。
「遅くなって申し訳ありません」
「何の何の。テオドール殿か一緒に来てくれて本当に心強い」
ハッハッハとアウデン男爵は笑った。多分本心だと思う。何せ二人には、モンドリアーン子爵家にいる間に俺の戦闘訓練や魔法の練習風景を見せていたのだから。俺がかなりの実力者であることを、イーリスにもしっかりとアピールできていると思っている。
「テオ様がいてくれるので帰り道も安心ですわ」
イーリスは満面に笑みを浮かべている。わずか三日間であったが、俺たちの距離はかなり縮まっていると言って良いだろう。もちろん一つ屋根の下だったとしても一線は越えてないし、パイタッチもしていない。正式に婚姻を結ぶまでは我慢だ。
「ミケちゃんも、一緒に来てくれてありがとう」
「べ、別にイーリスのために一緒に来たわけじゃないんだからねっ」
プイと顔を背ける、絶賛ツンデレ中のミケだがイーリスとの相性は悪くないようである。ミケの姿が見えないときは、大体イーリスの膝の上にいる。
ミケいわく「イーリスのことをチェックしている」とのことだったが、いつからミケは姑の立場になったのか。あんまり嫁いびりをするとイーリスからお菓子がもらえなくなるぞ?
アウデン男爵領までは馬車で二日ほどかかる。距離としては一般的な領地間の距離であり、その間にはしっかりと宿場町があった。この国では領地間を移動しやすいように、ちゃんと宿場町が置かれている。そのこともあって、安全に旅をすることができた。
予定通りに宿場町を抜け、二日後にはアウデン男爵家へとたどり着いた。さすがに俺の家よりかは小さかったが、それでも自然豊な美しい花々によって整えられた田舎の豪邸。
落ち着いたそのたたずまいは、どこか心をホッとさせるものがあった。
玄関の前にはアウデン男爵家の使用人たちが並んでいる。その中央にはアウデン男爵夫人とイーリスの弟であるレオンが立っていた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「お帰りなさいませ」
夫人とレオンが頭を下げた。それからそろって頭をあげると、その状態で石像のように固まった。うん、分かるよ、その気持ち。イーリスが裸眼で闊歩してるもんね。使用人たちもザワザワとなっている。
「ただいま戻りましたわ。こちらはテオドール様と、テオドール様の守護精霊のミケちゃんです」
イーリスが俺たちを紹介すると、「は?」「え?」みたいな顔になった。それを見たアウデン男爵がさすがに耐えきれなくなったようで吹き出した。その様子を少しほほを膨らませた夫人が見つめていた。二人は随分と仲がよろしいようである。羨ましいな。
使用人たちに案内されてサロンに到着すると、これまでのことをアウデン男爵が二人に話した。とても信じられないと言った顔つきをしていたが、現に目の前にいるイーリスの視力は回復しており、ミケも挨拶をしたので疑いの余地がなかった。
「まさかそのようなことになっていたとは……」
夫人は驚いた様子だったがとても喜んでくれた。やはりイーリスの目のことについては、心を痛めていたようだった。弟のレオンは大喜びだった。何せ義兄が守護精霊持ちなのだ。自慢できる兄だと思っているのだろう。俺もそう思われて悪い気はしなかった。
その日は盛大な歓迎の晩餐会が開かれた。
アウデン男爵領は魔境と化した森に近いというハンディキャップがあるため、それほど裕福ではない。何せ、魔境が近くにあるおかげで、土地の開発が遅々として進まないのだ。人口も増えないだろうし、それによって得られる税金もそれほど多くはないはずだ。
それでも俺たちを随分と歓迎してくれた。ちょっと申し訳ない気持ちになってしまった。
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