第4話

『どうだ調子は、朝倉は無事か』

「はい。さきほど無事南西部に到着しました」

『そうか、ありがとう』

民人との電話を終えて、大助はすぐにまた電話をかける。

繋がったと思うと、すぐに千菜の声が飛び込んできた。

「にしても……俺じゃなかったらどうするんですか。民人くんの話いきなりするなんて……」

『こっちはそれくらい把握できるさ。お前の家が贈ってきた最新式の電話機だろうが』

「はいはい、そりゃ失礼しました」

そういえば弟……圭介が、そんなことを言っていた。


「それにしても民人君使わなきゃいけないなんて、千菜さんもまだまだ不自由ですね」

『まあな、でもそれだけであいつを使った訳じゃない。それならお前と二人で行かせたさ、正直今の朝倉ひとりじゃ心許ない』

まったく、この男は……。

自分は頼りにされているのに、大助は意図の読めない千菜の言動に苛立つ。

「じゃあ、なんで一人で行かせたんですか」

『最初に杏奈を迎えに行くといったのは、あいつだからだ』

「え?」

『約束なんだそうだ』

大助の知る範囲では、そのような話は聞いたことがなかった。

「それ、いつの話ですか?」

『さあな……しかしなんだ、朝倉は。保護者どころかお前に懐いてるみたいじゃないか』

話を紛らわすように笑う千菜。

その返答に、これ以上の詮索はムダだと判断した大助も、千菜に続ける。

「ごもっともです。まったく……あの人があんなにヒトを頼るなんて」

4年前まではまったく思いもしなかった。

そんなことを思われているなんて、民人はまったく知らないだろう。

そもそも、自分がどんな人間であったかも。

『まあ、まんざらでもないんだけどな』

そういう千菜の声は、どこか嬉しそうだった。

「そうですね。最近はそれが当たり前だからなんとも思いませんが……最初は気持ち悪いくらいでした」

最高の笑い話かもしれんな、という言葉と共に受話器から聞こえる笑い声がおさまるなり、沈黙が訪れる。

『そうだ、大助……お前に対してはもうひとつ、本題がある。圭介に連絡を頼めないか?』

どうやら随分と深刻な話のようで、大助も気を引き締める。

「はい……何ですか?」

『瀬戸の研究員の件だ……ちょうど、朝倉もいなくてよかった。3日後にお願いしたい、と』

「……わかりました。ではまた、情報が入り次第」

受話器を静かに下ろす。

大助は思った。

民人を南西部に向かわせたのは、彼を中央から遠ざけたかったから、というのもあるだろう……と。

「それなら、俺にも協力できるさ」

一度置いた受話器を、もう一度取る。

そして慣れた手つきで番号を押す。

『……どうしたんですか、兄さんから電話なんて』

少しの電子音の後に、聞き慣れた声が飛び込んできた。

「圭介か? 千菜様から伝言だ――」


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