第151話


 ――いつからか、私にとって大切な人になっていた。


 まっすぐ思いをぶつけてくれる素直な彼。


 ひねくれた私のことも得意のポジティブ思考で受け止めてくれる。


 すぐにヤキモチを妬いて、真っ直ぐ過ぎて空回ることもあるけど……いつだって私を見つめる瞳は、キラキラ輝く笑顔は──何にも変わらないんだ。



 ……神永君、私の負けだよ。



「うん……」


 彼の言葉に初めてゆっくり頷くと、彼の大きな手で両頬を包まれ上を向かされる。


 近づいてきた顔。


 一瞬だけ見えた彼の口元がゆるんでいたのは見逃さなかった。



 ちゅ……


 触れた唇は一瞬で離れて、至近距離で見つめ合う。


 神永君の右手が私の後頭部に移動して、もう片方は腰へ。


 そのままぐっと引き寄せられたと思ったらまた、彼の口がぶつかった。



 角度を変えて何度も何度も口付ける。

 とろけそうなくらい甘く、柔らかい彼の唇に翻弄されてしまう。





「ちょ──まっ、て……」


 ……この人初めてって言ったよね!?

 うそでしょ!?なんでこんな上手いわけ!?


「ごめん、むり……もっと……まやちゃんと

触れ合ってたい……。すき……」


 私の言葉で数ミリ離れたと思ったら、彼がそう呟いた。


 

 ──いや、恥ずかしすぎて私がもう無理なんだけど!!



 さらに息をする暇もなく口づけられるもんだから、そろそろ苦しくなってきた。


 くそぅ、最終兵器だ……!


「ね、ちょっと……“凛”……?」


 そう呼ぶと目を見開いて動きを止める彼。


「え……今……」


 まんまるの目が羨ましくて、まじまじと見つめてしまう。


「……別に私は逃げないし、そんな焦んなくても……ちゃんと、これからも凛のそばにいるから」


 そう言って彼の胸を押して離れようとするけど、私の身体に回された腕の力は弱まらなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る