私の負け

第142話


 あのあと、陸にもストーカー疑惑を話し朝は一緒に登校してもらって、帰りは宣言通り神永君がご丁寧に教室まで迎えに来てくれている。


 二人には申し訳なかったけど、あれからあとをつけてくる気配もなくてとても安心していた。


 一人になることがほとんどなくなっていて……どこか油断、していたのかもしれない。





「──あの、麻井さん」


 声をかけてきたのは、前にしつこいぐらい話しかけてきて仕方なくラインを交換した、男の子。


 あれから何度か連絡は来ていたけど、あまり続くこともなく(というか私が続かせず)終わらせていた会話。


「ちょっと、いい……?」

 うちのクラスのHRが少し早く終わったのか、神永君のクラスが長引いているのか……放課後になっても彼はまだ現れない。


「……わかった。手短にお願いね」


 ……少しなら、大丈夫か。

 そう思って、先に歩きだした彼についていく。



 連れて行かれたのは、薄暗い教室。カーテンが全部閉まっているのに電気もつけず入っていく。


 なんだか不気味に思いながらも一緒に入ると、彼はドアの鍵を──閉めた。



 そこで私は初めて恐怖を覚える。


「え……なに……」

 じりじりと迫ってくる目の前の男。


 その表情からは何も読み取れないけど、少し怒りを含んでいるような気もする。


 私は彼が近づいてくる分、後ろに下がっていく。


 だけどとうとう壁に背がついて──冷や汗が流れる。


 彼は私の怯えた表情を見ても無表情なまま口を開いた。


「俺、ずっと麻井さんのこと好きだったんだよ……。でもいつも隣には陸がいて……陸が相手なら諦めようと思った。なのに、急に出てきた神永に取られるなんて……そんなの許せない。我慢できない」


 普通の告白なら、もっとマシなリアクションができたのかもしれない。


 だけど、こんな環境下におかれてまともな返事なんてできなかった。

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