第104話


 陸は一度、大きく息を吸ってからまた、言葉を続けた。


「今までは──マヤに彼氏ができてもすぐに別れるだろうなって思ってた。絶対、俺に泣きついてくるって。俺のところに戻ってきてくれるって、そんな自信があった。お前が好きになる奴って基本的にダメ男ばっかりだったしさ。最後に好きになったのも、彼女がいる『先生』。『先生』を忘れたくて付き合った男も最低な奴だった」


 「……でも、今回は、ダメなんだ。不安で仕方ない……。ずっと一緒にいたんだ。お前の顔見たら、神永が今までの奴とは違うんだってすぐにわかったよ。俺──マヤがどこかに行っちゃう気がして、怖い。──ねえ、マヤ。……俺は、今回……応援できない」


 陸の言葉の後──私の体は彼の温もりに包まれた。


 いつだって私の意思を尊重してくれて、私が決めたことは笑って受け止めてくれた。

 そんな彼が、今ものすごく辛そうにしている。


 そっと背中に手を回すと、さらにぎゅっと力を込める陸。



 ……どうしてだろう。涙が、止まらない。


 神永君はそんな対象じゃないよって言い返したい。

 私はどこにも行かないよって言ってあげたい。



 ……だけど、そんな言葉は喉につっかえて、出てこない。


 神永君の眩しいくらいの笑顔と、陸との思い出が私の頭の中を行ったり来たりする。



 私が泣けばすぐに駆けつけてくれた。


 私が笑えば顔をくちゃくちゃにして笑い返してくれた。


 私が怒れば背中をなでてくれた。



 ──私が生きてきた17年間、いつもそばには陸がいた。

 



 ……ねえ、陸。知らなかったよ。


 私──そんなに大切に、されてきたんだね。

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