第71話


 私が微笑んで見せると少し驚いたように目を見開いて、唇を噛みしめた陸。


 何か言いかけて口を開いたけど、言葉を発することはないまま閉じられる。そしてしばらく何かを考え込んだ後


「──わかった。なんかあれば言えよ?すぐ行くから」

 と私に言い聞かせるように強く言った。


 その勢いに負けて頷くと、納得したような、していないような──複雑な顔をする。


 そして「もう帰りな」と背中を押して家に入るように促してくれた。


「じゃあ陸……神永君も。また明日ね」


 そう言ってその場を逃げるように玄関の扉を開く。



 チラリと見えた二人の顔。


「……うん。ばいばい」

 ちょっと困ったように笑いながら手を振る神永君と


「じゃーな」

 まだ少し不機嫌そうに口をとがらせている陸。



 私はこの後残された二人の様子なんて気にも留めないで、閉まっていくドアとそれに比例して見えなくなる二人を見つめていた。

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