第41話


「ついたー!!」


 走り抜けていく見慣れない道をぼーっと見ていると急ブレーキで自転車が止まって眠気なんて吹っ飛ぶ。


 ……身体まで吹っ飛びそうだったけど。


 サドルから降りて自転車のスタンドを立て鍵をかける神永君は意外と真面目だな……なんて考えていると、ふわりと身体が浮いて彼に抱えあげられているのに気付く。


「え!?ちょっ……」

 そのまま下ろされて、優しく微笑まれた。

 自転車ぐらい、自分で降りれるんだけど……。


 そんな文句なんて

「少し、歩くね?」

 って言いながら私の手を取って歩いていく彼にはもちろん伝わらない。



 自転車が止まったのは、広い公園のような場所。私の家の近くの公園のように遊具があって子ども達で賑わう場所ではないけど、すごくゆったりとした空間だった。



 その中をスキップでもしちゃうんじゃないかってくらい軽やかに歩いていく神永君。だけどきちんと私の歩幅に合わせてくれるところが紳士的だ。


「うわっ!!」

 散歩道のようなところから、急に草木をかき分けて道のない場所を無理やり進んでいく神永君に必死でついていく。

 周りの景色なんて全く分からなくて、目を閉じたまま彼の誘導に任せて歩き続けるだけで精いっぱい。



「──見て!」


 彼の言葉にうっすら目を開けるとそこには見たことのない光景が広がっていた。


「すごい……」


 一面に咲き誇るシロツメクサ。緑と白がいっぱいに広がっている。


 ここに来る人は少ないのだろうか、踏み荒らされた様子もなく一本一本が堂々と咲いていて、綺麗だった。シロツメクサなんて小さいころ四つ葉のクローバー探しをした以来見ていない気がする。


「まやちゃん、うるさいの嫌いそうだからさ。花が好きかどうかは分からなかったけど……」


 確かに、周りには誰もいなくて静かだ。


「──好き」

「うえっ!?」


 目を丸くして跳び上がる目の前の彼に、言葉の選び方を間違えたと思った。


「花のことね……」


 そう付け足すと

「ああ……そっちか!!びっくりしたあ……」

「どっちがあるんだよ」


 すかさず突っ込んでしまう。



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