第29話


 神永君の友だちと教室を出て、中庭へとやってきた。たしかに、ここなら誰もいなくて静かだ。


 彼は立ち止まると、すぐに話し出した。


「……凛と、話をしてやってほしいんだ。朝、君に『大っきらい』って言われてから、ものすんごい落ち込んでてさ。普段、俺以外には素見せないのに教室で机に突っ伏してずっと半泣きだから、クラスの奴らもびっくりしてんの」


 私の良心がチクリと痛む。それと同時に引っかかる言葉。


「神永君の“素”って……」


──そう、みんなが口をそろえて言う「『あの』神永君」って言葉。その意味が分かってからも、いろんな疑問が渦巻いていた。


 クールで有名な「あの」神永君が、何故か私に甘い。何が本当で、何が嘘なのか。


 ……この人なら、本当の彼を知ってるんだろうか。


 「神永君の素ってどっち?」だなんてさすがに失礼だと思って聞けずにいたけど、彼は私の言いたいことが分かったようだった。


「──ああ、クールだって言われてるやつ?俺からしたらあいつにクールさなんて1ミリもないんだけど。──君にも、でしょ??」


 わ、おんなじこと考えてる。


「……まあ……」


 

 すると今度は懐かしそうに遠くを見た彼。


「俺は中学から凛と親友なんだけど、あいつって高校に入ってから急にモテだしてね。……でも高校入学前からまやちゃんを捜すんだってずっと言ってて。女子に対してやたらと冷たいのもさ『まやちゃんに再会した時、誤解されたくないもん!まやちゃんがすきって伝えても、女の子と仲良くしてたら説得力なくなっちゃう』っていう理由なんだよ。意味わかんないよね!」


「親友の俺から見ても、さすがに自意識過剰っていうの??気持ち悪いじゃん!?再会してもないんだし、女の子はまやちゃんだけじゃないよって言ったんだ。そしたら、あいつなんて言ったと思う??」


 可笑しそうに笑ったその人は、神永君のことを大切に思っているんだとわかる。


「『俺にとって女の子はまやちゃんだけだから!!

ほかの女の子って悪いけどみんなジャガイモにしか見えない』ってさ!!あいつアホでしょ??凛の「クール」キャラは……本当に君が好きだからなんだ。あいつの君への本気度は俺が一番近くで見てきたから、よく知ってる。再会したって俺に言ったとき、あいつほんとに跳びあがって喜んでんの。『どうしよう、まやちゃんのこともっとすきになったんだけど!!』って暴れてたんだ」


 ははっと笑う目の前の彼。


 ……なんて言ったらいいか、わからない。


 正直、この話があのイケメンじゃなかったら──通報してた、確実に。世の中って不公平だよね。

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