僕を金縛りにさせるもの
気温34℃の要因である日照りのもと、僕は左足を踏み出したまま、動けなくなっていた。
目先にあるのは、軽自動車。
シャッターが閉ざされた建物の前で、堂々と路上駐車していた。ボンネットの左下の隅には、若葉マーク。僕はこの中心についつい目を移した途端、すべての動きを封じられた。
全身の神経は通っているはずなのに、まったく動けない。
髪の毛のすきまから、汗がたらたらと一筋ずつ、顔を流れていく。
早く涼しい家に帰りたい。
それよりもここから少し先にある自販機に行き、ポカリを買ってガブ飲みしたい。
でも今は、若葉マークがそれを許してくれない。
この窮地に、助けてくれる人はいない。
誰も通りすがってくれない。
このまま僕は、若葉マークに呪い殺されてしまうのか。
絶望が僕の体内にうずまきはじめていた。
このまま果てても仕方ないから、とりあえず気を紛らわせるものを考えよう。
そう思ったら、脳裏に並木道を歩く瀬里奈の姿が浮かんでいた。
僕の同級生だ。脳裏のなかでは、僕が通う高校の制服を着ている。
そのとき、木々の間をすり抜けた風が、彼女のスカートに飛び込んだ。
風によって不意に踊らされたスカートが、パステルブルーの下着をわずかにさらした。
急に僕の体が動き出した。足がばたつきながら、車の後ろの方まで僕を走らせたのだ。
僕はとっさに自分の右腕を上下に振ってみた。ちゃんと動かせるようになっている。
体の機能が戻ったことで、僕は地獄から解放された気持ちになった。
もしかして、あの若葉マークからの金縛りは、エロいことを考えれば解けるのか。
そんなことはどうでもいい。
とにかく火照った体を癒そうと、すぐ先にある自販機の前へ駆け込み、ポカリを買った。
一口飲めば、天国の癒しが僕の体内を訪れた。
生きてて良かった。
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