第72話 看板植物アルちゃん!

 今日もお店と屋台を開けたら、まずは騎士団への納品分を準備しておこう。昨日渡したばかりだから余裕はあるけれど、時間のある時にやっておかないとね。


「きゅきゅー!」


 突然アルちゃんの声が近くで聞こえた。振り返るとアルちゃんが目の前にいてちょっとびっくりした。昨日作った移動温泉でお店まで飛んで来たみたいだ。


「わわっ、アルちゃん。おはよう!」


「きゅ~」


 アルちゃんはとても嬉しそうにお店の中を飛んでいる。でも、お客様がびっくりするだろうから気を付けようね?


『アル、おはよう。あんまりウロウロすると危ないから気を付けるんだぞ』


「きゅきゅっ!」


 分かった! とでも言っているようなアルちゃん。今まで1人で錬金部屋にいて寂しかったんだろうね。これからは好きな時ここに来られるから嬉しそうだ。


「お客様がいる時に飛ぶと危ないから気を付けようね」


「きゅっ!」


 アルちゃんは片手をあげてお返事をしてくれた。本当にマンドラゴンがこんなに可愛いだなんて思わなかった。


 昨日の浮く椅子は魔石を中サイズしか使わなかったけれど、大サイズを使ったら高さと速さが上がるかな?

 アルちゃんも一緒に行くとなるとお風呂が良いよね。だけど、私がお風呂に浸かっていくわけにはいかないし、どうしようかなぁ。


「あっ、足湯っ!」


『はっ?』


「きゅ?」


『あしゆとはなんだ?』


「足だけお湯に浸かるんだよ。私がお風呂に入りながら移動は出来ないけど、アルちゃんと一緒に移動するならお風呂がいるでしょう? そこで足だけ浸かれる足湯なら一緒に移動出来そうじゃない?」


『カノン。別にカノンまでお湯に入る事ないだろう』


「えー。でも一緒の方が楽しそうじゃない?」


「きゅっ!」


『いやいや。足湯に入りながら移動するのか?』


「えーっと、そうなるね?」


 ヴァイスのジト目が痛い、痛すぎる。でも、せっかくなら楽しく移動したいじゃない? しかも、足湯ならぬくぬくぽかぽかで移動出来ちゃうんだよ、凄くない?


『別にお風呂が移動しなくても良くないか?』


「もう、ヴァイス。夢がないわ!」


『いやいや、いらんだろっ!?』


「えー! だって、可愛いアルちゃんとお出掛けしたいじゃない!」


「きゅーっ!!」


 そんな掛け合いをしていたら、ちょうどお店に来ていた宿屋のアルマさんにすごく笑われた。


「ふふっ。カノン達は仲良しだねぇ」


「えへへ。うちの子達は可愛いですからね!」


「その子は初めましてだねぇ」


「この子はアルフォンスのアルちゃんです」


「きゅきゅー」


「ははっ、挨拶してくれるのかい? 私はアルマだよ。それにしても可愛い子だねぇ」


 アルマさんになでなでされて嬉しそうなアルちゃんだ。やっぱりうちの子は可愛いのです!

 アルマさんが帰った後、アルちゃんが私の周りをぷかぷか浮いてお話していると、驚いた声が聞こえて来た。


「な、なんですかそれはっ!?」


「アルノーさん、いらっしゃいませ」


 錬金術師ギルドのギルマスのアルノーさんが来た。


「カノンさん。それは一体!?」


「ん? どうしたんですか?」


「そ、それはマンドラゴンでは!? しかもなんで飛んでるんですか!」


 飛んでいるアルちゃんが不思議だったのですね。同じ錬金術師なのだから、そんなに驚かなくても良いと思うんだけどね?


「えーっと、マンドラゴンのアルちゃんです!」


「きゅ!」


「私はアルノーです。よろしくお願いしますってカノンさんっ!?」


「はい、どうしました?」


「なんでマンドラゴンが話すんですか!?」


「えっ、話さないんですか!?」


 アルちゃんは植えて次の日にはお話していたのに、マンドラゴンって話さないのだろうか。不思議な顔をしていたからか、アルノーさんがマンドラゴンの説明をしてくれた。

 普通のマンドラゴンは抜かれた時に、ヴァイスが気絶するくらいの嬌声をあげてその後は動かなくなるんだそう。

 お湯で土を洗い流して収穫した物も、土から出て少しすると動かなくなるんだと教えてくれた。


「カノンさん。もしかして、先日のお水はこの?」


「はい、そうですよ。アルちゃんはお湯に浸かっているので、お湯を足したり栄養剤を足してあげる時にお湯を貰うんです。そのお湯が錬金素材として使えるんですよ」


「なるほど。でも、どうやってマンドラゴンを育てたんですか?」


「あぁ、それならマンドラゴンの種を植えたんですよ~」


「種、ですか?」


 マンドラゴンの種って思ったよりも知られていないみたいだ。基本的にマンドラゴンは山の中などに自生しているのを収穫してくるんだそう。ただ、収穫するのもヴァイスが気絶するくらいなので、採取の仕方を知っていても命懸けだ。


「まだ種がありますから、要りますか?」


「あるんですかっ!?」


「えぇ。グリーンドラゴンからドロップしたのがいくつかありますよ」


「カノンさん。ぜひ譲ってくださいっ!」


 アルノーさんに水耕栽培のポットを見せて作り方を説明してから、マンドラゴンの種を取り出して渡した。


「マンドラゴンがこんなに可愛いだなんて思いませんでした。カノンさん、見せて頂いてありがとうございます。それにしてもなんで飛んでいるんですか?」


「アルちゃんが1人で寂しそうだったので、そのまま移動が出来ないかなと思って移動温泉にしました!」


「なるほど。確かに、とても嬉しそうですね」


「そうなんですよ。作って良かったです!」


 アルノーさんにも移動温泉の作り方も教える事になった。マンドラゴンの種とかの支払いはギルドカードに入れてくれるらしい。

 ギルドカードでお買い物をする事も出来るから、ギルドカードにお金があると便利だよね。


「カノンさん。帰ったらすぐに水耕栽培ポットを作ってみます。ありがとうございました!」


「いえいえ、何か必要な物があったりしたら言ってくださいね」


「ええ、ありがとうございます」



 アルノーさんは楽し気に帰って行った。これはギルドに戻っても錬金部屋へ直行な気がするね。お仕事が滞らないと良いのだけど。

 でも、錬金術で何かを作るのはとても楽しいから気持ちは良く分かる。私も一日中錬金したいって思うもんね。


 その後も飛んでいるアルちゃんに驚きながらも、結構みんなに可愛がられている。ちょっとヴァイスが拗ねている気がするので、ヴァイスもなでなでしようかな。


『ふんっ』


「ヴァイス、どうしたの?」


『何でもないぞ』


 そう言いながらもちょっとしっぽが不機嫌にペシペシしている。あまりの可愛さににこにこしてヴァイスの背中をなでなでしてしまう。


「ヴァイス。今日は何を食べようか?」


『ふむ。では肉だな!』


「あっ、それは良いね」


 今日のお昼ごはんは、ご飯に良く合う生姜焼きにしようかな。私も久しぶりに食べたい。ご飯の準備が出来たら、レオナ達と交代しよう。


「2人ともお疲れ様。交代するからゆっくりご飯食べておいでね~」


「うん。カノンおねぇちゃん、ありがとう」


「うん。ありがとう」


 ヴァイスもご機嫌でご飯を食べに行った。少しして、お昼ごはんを食べた2人と交代して私もご飯を食べよう。うん、久しぶりに生姜焼きにしたけれど美味しいね!


 ご飯を食べ終わった後は、午後もお店を頑張ろう。


 午後のお店でも、アルちゃんがお店にいる事でいつもよりなんだか賑やかな感じだ。やっぱりアルちゃん用移動温泉ポットを作って良かった。

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