第百八話

「ふふ…」


「おいやべぇぞリュート…さっきのボスなんか足元に及ばない程強いぞあの人…!」


「…ああ…殺意に当てられて手が震える」


3年前の頃にベン達を追い払った時の殺意とはまた違う、俺たちを本気で殺すとその目が…気配が言っている


「…こないならこっちから行くよ…」


瞬きをする暇もなく、俺達の前へ距離を詰められた


「…くっ…」


「…へぇ、この速さに追いつけるんだね」


2つの短剣が俺を襲う


「は、早すぎるっ!くっ…」


無属性魔法でも使ってるんじゃないかこの人?魔力感知ではそんな気配は無いけど…正しく化け物か…!


「…はぁ!」


「まだまだこれからだよ!」


さらにスピードが速くなってきている、人が出していい速さじゃないって!


「ぐあ…!」


「リュート!くそ!炎魔法:爆炎龍…」


「詠唱が遅いねぇ…!隙だらけだよ」


「かはっ…!」


ルシュが蹴り飛ばされる


「…本当に人間かよ…あんた…魔族だって言われても信じるよ…」


「…ふふ、伊達にA級じゃないって事さ。私の場合は人専門の…だけどね」


「人専門…?」


「冒険者にも色々居るってことさね、魔物を狩ることを生業にする冒険者も居れば…人を殺す事を生業とする冒険者もいるのさ」


「それ…冒険者と言わないんじゃ…」


「さぁね、細かい事は私も知らない。だけど私達は人を殺してきてA級になったんだ、あんた達も…」


両手に持つ短剣をクルクルと回しながらこちらに歩いてくる


「私を殺す気で来ないと、死んじまうよ?」


死の感覚が纏わりつく、殺らなきゃ殺られる…頭が急速に回転するのが分かる。全力で行かなきゃ死ぬ…!


『闇魔法…使うのですね』


「…ああ、本当に全力で行かなきゃ首と体がお別れしそうだ」


「やっと殺る気になったかい、その目…いいねぇ。最初にあった頃から何となく感じ取ってたんだよ」


「魔力瞬進・漆黒剣・聖剣…」


「その目は私と似てる…人を殺めた事のある目だ」


「あいにく今世では誰も殺して無いんで一緒にしないでください」


「…今世?まるで前世の事を知ってるかの様な…」


「…迅鈴刃流:一式:刹那切り:2連」


「…っ!早い!」


一撃は防がれたか…でももう一撃は左腕に当たったな


「…ぐっ…!」


「もうその左腕、使い物にならないでしょう?」


「…くふ…あはは…!久しぶりだよ…私にここまで傷をつけた奴は、私も腕が鈍っちまったかな」


「もうまともに戦えないんですし終わりでいいですよね?」


「…舐めてもらっちゃあ困るね、片腕如き使えなくたって戦えるよ」


「…なら戦えなくなるまで徹底的に潰すしか無いようですね」


「やれるものならやってみな!迅雷魔法:雷神纏い」


「…?!」


なんだあれ…普通の纏いじゃない!


「あんたに追いつけるかな?」


「はっ…!後ろ!」


「残念前だよ」


「ぐふっ…!あ…ぐ…」


気づいたら俺の横腹に短剣が突き刺さっていた


「ああ…案外呆気なかったねぇ…」


「…ごふ…ふざ…けるな…よ…特癒回復」


「もう治ったのかい?凄いねぇ…光魔法っていうのは…」


「はぁ…はぁ…」


早すぎて見えなかった、魔力を目に集中してたのにも関わらず…本当何者だよこの人


「…でもいくら治せたって致命傷さえ与えれば回復なんて無理だろう?」


「…そんなことさせない…!」


何とかして動きを読まないと


「出来るかな?」


「消えた…!くそ…集中しろ…」


「無駄無駄…誰も追いつけやしないよ」


気配も巧みに消してる…厄介だな、これじゃどうする事もできないじゃないか


「…だけど全方位を守ればいいだけだ!纏い:剛円」


「さっきの防御魔法かい?本当人相手でここまで時間がかかるのは久しぶりさね…!」


来る!左!


「でも甘い!所詮何も知らない子供さね!」


「くっ…?!」


剛円にヒビが…!あの神父ですら傷1つ付かなかったってのに…というか左じゃなくて右に傷がついてる


「驚いてるようだね、どんなに強い魔法でもどこかに脆い部分があるって事を知っとくんだったね!」


「…脆い部分?そんな所ある訳…」


魔力感知で見てみる…本当だ…傷がつけられた所は魔力が微妙に行き届いてない


「それを魔力感知なしで見分けただって?」


どうなってるんだよ、本当に俺と同じA級か?


「気づいても遅いよ、はぁっ!」


また左からか!


「…同じ手に引っかかるなんて勇者としてどうなんだい?」


傷はまたもや右についていた


「まただ、確かに左に来ると思ったのに…逆の方向に傷が…」


「…ふふ、どうだい?これが長年培ってきた技術って奴さ」


あまりにも自然なフェイント…そういや前にロディ先生と手合わせした時もロディ先生が使ってたな


「…あの時とは別物みたいに自然だけど、くそっヤバいな…勝てるか分かんないや」


「…おや、諦めるのかい?私はまだまだやれるけどね!」


また左から来る!なら今度は右に魔力を集中させて…


「…ふふ、単純だねぇ…」


『魔力を偏らせてはダメです!』


そのまま左かよ!


「…防御は崩れたね!これでお終いだ!」


「しまっ…」


死ぬ…!


「っらぁあ!」


「…っち…」


寸前の所でルシュが大剣で攻撃を逸らす


「…はぁ…はぁ…悪いリュート!少し気絶してた!」


「いや…助かった…死ぬ所だったよ」


「防がれちまったか…残念だね」


ケタケタと笑いながら、手についた血を舐めとる


「完全に悪役のやる事だよそれ」


「…あの人めちゃくちゃ強いな、やれるかリュート?」


少し不安気に聞いてくるルシュ


「分からない…でも俺達は勇者パーティーだ、どんなに強い敵でも…勝てないと分かってても諦めちゃダメなんだ…!」


俺はパーティーのリーダーだろ…!仲間を不安にさせてどうする?


「勝つぞルシュ!」


「…ああ…!背中は任せろよ!」


「分かった!」


「2人で何が出来る見ものだね…ふふ」


「コンビネーションAだ!」


「了解!」


「…コンビネーションA?」


俺とルシュが勉強をサボって生み出した戦術その1


「炎魔法:大炎上!」


辺り一面が火の海と化す


「…ちっ…そんなものじゃ私は止められな…」


「水魔法:大水流!」


「なっ…!前が見えない!」


水蒸気で何も見えないだろう?だけどこちらには魔力感知があるからラミダさんが居る場所はバッチリ把握出来る!


「「激似複合魔法:圧縮炎弾:100連!」」


「くっ…魔法打つまでの時間稼ぎだったかい…!」


火の雨がラミダさんへと降り注ぐ


「…そんなもの…!避けるだけさね!」


「…無駄だよ」


「なっ…!」


ラミダさんの後ろから水の玉と光の玉が現れる


「水蒸気と魔弾に気を取られて気づかなかったでしょ、水流縛り・魔光縛り」


「…くっ離せ!そんな…!私が人に負けるなんて!」


「勇者パーティー舐めんなよな!」


「ああああ…!ぎゃあああ!」


耳を割くような爆発音が鳴り響く


「勝った…!今度こそ帰れる!」


「うぉぉ!俺達の大勝利だ!」


「…うう…」


「…俺達の勝ちでいいですよね?ラミダさん」


「…ああ…私の完敗だよ…ぐふ…」


100連はやり過ぎたかな…治してあげよう…




「…はぁ…本当に負けちまうなんて…元A級執行者としては複雑さね…」


「執行者?何それ」


「…ギルドから直に雇われた冒険者さね、一般の冒険者は依頼を受けて魔物を狩ることがメインだろ?」


「ええ、たまに盗賊を相手にする事もありますけど」


「私達執行者は道を外した冒険者を狩りの対象にする冒険者さ、殺しの快楽に溺れた冒険者をね…」


「「それって…」」


「私はちゃんと依頼でやってるだけだよ!」


「…でもなぁ…?」


「血舐めてたし…」


「あれは演技だよ、演技!本当に殺すつもりなんて無かったよ。失礼な子達だねぇ…」


「嘘だぁ…」


「仕方ないだろ?魔法学園の学園長にはそういう風に振舞ってくれって依頼されてるんだから…」


ラミダさんがちょっといじけながら呟く


「…ロミリア先生鬼すぎるだろ」


「生徒殺しかけるとか頭おかしいよあの学園長」


「…とにかく試験は合格、帰ろうじゃないか」


「はい…はぁ…疲れた…」


「俺帰ったら秒で寝れる自信ある」


「…それにしてもあの戦術、2人で考えたのかい?」


「ああ、と言っても殆どリュートが決めたんだけど」


「へぇ…あんたがねぇ」


「いやいやルシュも提案してくれてたじゃないか」


「そうだっけ?」


「…ふふ、アリアが惚れた理由が分かる気がするよ」


まだまだ甘い所はあるけど戦術を生み出す才能、勇者としての強さ…何よりも純粋な心、そりゃ大抵の女はイチコロだろうさね…


「…成長したらいい男になりそうだし…私もアリアには悪いけど唾でもつけとくかね…」


「はっ…背中からねっとりとした視線が…!」


「どうしたリュート?」


「い、いやなんでもない…」


「ふふ…」


「ひえ…」


後ろは振り向かないでおこう…


「…そういや結局前世ってどういう意味だったんだろうねぇ…?」




キメラがミラノワを襲うまで残り1ヶ月を切っている

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