第百五話

その2日後、本当にカレンはこの屋敷から去っていった。俺はカレンの言葉が頭から離れないでいる


「…」


思えば俺はカレンの事を何一つ知らなかった、過去に何があったのかも分からない…でも確かなのはカレンは助けを求めていたということだ


「…助けるに決まってるだろ」


助けた後にカレンのことを知ろう、俺の事を我が子のようだと言ってくれた…大切な人だから


そして夏休みも終わりを迎え、いつもの学園生活が戻ってくる


「よーリュート〜元気にしてたか〜」


「うん、暇な時が多かったけどね」


「俺もだよ…なんか学園生活が忙しかったぶん余計にな…」


「本当だよ…それでもまた忙しい学園生活が始まるんだよね…」


「暇な時が良かったな…」


「「はぁ…」」


「リュート〜!会いたかったですわ〜!」


「ぐふっ…」


エリスが突進してきて抱きつく


「…2ヶ月も会えなかったので寂しかったですわ…」


「あ、ああ、俺も寂しかったよ」


「本当ですの?ふふ…」


「おーおーお熱いことで〜」


ニヤニヤと見るルシュ


「…レディッサ様にも会ってあげるといいですわ」


「レディッサ先生に?」


「結構荒んでたようですので…」


案外寂しがり屋なんだよなぁ…レディッサ先生


「分かった、行ってくるよ」




「…また何も言わずに出ていった…」


「す、すみません…」


「…一言ぐらい欲しかった」


「はい…ごもっともです…」


実家に戻る時に挨拶するのわ、忘れてた…


「…研究が手につかなかった、こんなの初めてだ」


「本当申し訳ございません…」


「…」


涙目でこちらを無言で見つめるレディッサ先生、最初に出会った頃の荒々しい姿はどこへやら…


「…撫でろ」


「はい…はい?」


「…オレの頭を撫でろ」


「あ、はい」


言われた通りにレディッサ先生の頭を撫でる


「今回はこれで勘弁してやる、次は許さないからな」


「ありがとうございます…」


普段あのガサツで男勝りな姿を見てる分、こういう乙女な姿を見せられると心臓が破裂しそうになる


俺相変わらずギャップ萌えに弱いなぁ…


『私も何か普段と違う行動を見せましょうか?』


それは遠慮願いたい


『例えばリュート様を罵ったり罵倒したり…』


それいつものステさんですよ、ギャップのギの字もないよ…


「…なぁ…1年後…旅立つんだよな」


「はい、そのつもりですけど…」


「…いかないでくれ」


「え…?」


「…最近エリーの夢ばかり見るんだ…リュートにはあんな目にはあって欲しくない…」


弱々しく俺を抱き締める、少し震えている


「…レディッサ…先生…?」


「いや…なんでもない…悪い…頑張れよ旅」


「は、はい…」


なんか様子が変だな…エリーさんって…レディッサ先生の弟子で勇者パーティーだよな?確か前世でも見た事がある


『…エリー様の事はあまり知らない方がいいと思いますよ』


どうして…?


『…リュート様は邪神を倒す事だけに集中した方がよろしいかと』


そりゃ…そうだけど…


「…リュートなら大丈夫だって信じてるからな」


「レディッサ先生…それって…」


「ほら、アリアにも会ってやれよ。アイツも寂しそうにしてたぞ」


「え、あっちょ…」


無理やり押されながら部屋を追い出される


「…変なレディッサ先生だ…」



「…リュートなら大丈夫なはずだ…」


震える手を握りしめる


「なのに…なんなんだ…この胸騒ぎは」


前はこんなに酷くは無かった、だけど時間が経つ度徐々にあの時の…エリーの目を見た時の様な胸の苦しさが収まらない…


「…オレが守るんだろ…次こそは…」


自分にそう言い聞かせる


「エリー…オレ…出来るかな…」


レディッサは1人、涙を流した




「リュート様〜」


「久しぶり、アリア」


「会いたかったですよ〜…おや、元気ないですね」


「そうかな…」


「ええ、いつもは抱きしめて愛を分かちあってくれるのに」


「…それ多分人違いだよ」


「冗談です、それで?何かあったんですか?」


「…アリアは俺がこのまま死なない方法を見つけられずに死んだら…どうする…?」


「リュート…様…?そんなの…きっと見つか」


「見つかるか分かんないんだ…そんな方法…」


「…リュート様…」


「…死なない方法を探しても…もし見つからなかった時の為に覚悟もしとかなきゃ…」


神を倒すなんて命を代償にしたって勝てるか分からないんだ…そういう事になってもいいように覚悟だけは


「何…弱気になってるんですか…リュート様っ!」


アリアの方を見ると、怒りを露わにしていた。初めての事だった、アリアが俺に怒るなんて


「…そんなのリュート様らしくないじゃないですか、何死ぬ時の事考えてるんですか?」


「ア…リア」


「どんなに辛くてもどんなに不可能でも乗り越えて私達を助けてくれるのが…リュート様じゃないですか」


「…」


「リュート様が辛いなら私達が貴方を支えます、貴方が私達を助けてくれるように…だから…」


抱きしめられた


「…死ぬ覚悟なんて言わないでください…皆…貴方の事が大好きなんですから…生きてください」


生きてくださいか…ああ…そうだな…まだやらなきゃいけない事が沢山あるんだ、死ぬ時の事より生き残る為の事を考えよう


「…うん…ごめんね…アリア」


アリアには弱い所を見せてばかりだな…


『リュート様を想ってくれている素晴らしい方ですね』


うん…恵まれてるよ、本当


「いえ…そうですよね…リュート様も沢山この背中に背負って…戦ってるんですよね」


「…俺、皆を不安にさせないよう頑張るよ…ゴキブリ並の生命力で生き残ってやるから」


「ごきぶり…?というのは分からないですけどいつものリュート様に戻ったようで安心しました!」


「うん、ありがとう…もう大丈夫」


「ふふ、愛しのリュート様の為ですからね!」


「うん、俺もアリアの事好きだよ」


「えへへ…ふぇ?!」


「あ…」


やばいつい口走ってしまった!


『これはこれは…邪神を倒す前に気持ちに応えちゃいましたね』


「あ…その…」


「…ええと…その…う、嬉しい…です…」




お互い顔を赤くしながらモジモジしているのであった




キメラがミラノワを襲うまで残り1ヶ月

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