第百四話

姉上からの告白から数日後、俺は椅子に縛られていた


ミリシャに…


「…あ、あの…これ…」


「…お姉ちゃんだけズルいお姉ちゃんだけズルいお姉ちゃんだけズルい私もお兄ちゃん好きなのに…」


「ひっ…」


ヤンデレだぁ…あはは…あはは


『現実逃避してますね』


「…抜けがけしたお姉ちゃんは許さない…」


あ、姉上への殺意が高い…


「…私もお兄ちゃんの事大好きなの…」


「え、ええと…もしかして異性として…?」


「…そうだよ?優しい所も頼もしい所も目も口も鼻も髪も手も足も全部全部…大好きなの」


「ひええ…」


下手すれば邪神より怖いよぉ…


「…お兄ちゃんは私の事嫌い?」


「いや大好きだよ」


「…異性として?」


「それは…うーん…」


ミリシャはまだ8歳だ、恋愛対象なんて以ての外だしなぁ…


「即答してくれないんだ…ならこのままお兄ちゃんを監禁すれば私のものにできるかな…」


お、恐ろしい事を言ってらっしゃる…


「…ごめんな…ミリシャは妹としてずっと見てたからさ…その…時間をくれないか?」


「…時間?」


「まだミリシャは8歳だ、もう少し大人になって、まだ俺を好きで居てくれるなら俺も気持ちに応えるよ」


「…む…むむ…」


悩んでる様子、このままだと邪神倒す前にミリシャに

色んな意味で倒されてしまう


「…不服だけど分かった」


ほっ…何とか納得してくれた様だ


「その…姉上にも言ったけど俺既に2人に気持ちを応えなきゃいけないだ…ミリシャはそれでもいいの?」


「…構わない」


本当、この世界の人達一夫多妻制に寛容過ぎないか?


「…あの人達ならいい」


「…あの人達?ミリシャは知ってるの?」


「…え…あ…いや…」


あたふたと慌てるミリシャ、可愛い


「…とりあえず…この縄解いて欲しいな…」


「…分かった」


椅子から解放され、自由になった


「…ちゃんと気持ちに応えてね?」


「分かった、待っててな」


頭を撫でる


「…うん!」


もしかしたら大人になったら違う人を好きなるかもしれないしな…ミリシャ次第な部分もあるけど


『あの感じでは何十年と待ちそうな雰囲気でしたけどね』


…まぁその時はその時だな



そんなハプニングもありつつ俺達は夏休みを過ごしていき、夏休みが残り1週間となっていた


「…ふぁ…あと1週間か…」


「長かったようで短かったね〜」


「…2人とも居なくなるの…寂しい」


「私も寂しいよ〜…ミリシャを学園に連れてったらダメかな…」


「ダメでしょ…」


「生徒会長の権限で…」


「1番いけない使い方だよそれ…」


「はぁ…早くミリシャも学園に通えるようななればいいのにね〜」


「…でもミリシャが入学する時、姉上卒業してるんじゃない?」


「…え」


ばっと起きやがり年数を数える姉上


「学園は7年通うから…今私が15歳で…4年生…ミリシャが12の時は私は19で…入れ違いだ?!」


この世の全てに絶望したような顔をする姉上


「…お姉ちゃんと一緒じゃないの…?」


ミリシャも絶望している


「…放心してらっしゃる…」


2人は魂が抜けたように座り込んでいる


「さて…ローグに散策でもしてくるか」


放心している2人を横目にローグへと向かった


「…で、毎回の事だけどなんで1人で出かけようとすると誰かしら着いてくるんだ」


「坊っちゃまをお守りするのが私の役目ですので」


「ここら辺で俺を倒せるの父上か姉上ぐらいだよ…」


何故かカレンが同行することとなった


「そもそもカレンはミリシャのメイドじゃないか」


「ミリシャお嬢様は他のメイドに任せておりますのでご安心を」


「…そういう問題じゃないなぁ…」


「私はミリシャお嬢様の専属メイドですが、坊っちゃまのメイドでもあるんですよ?」


「…まぁそれもそうか」


別に着いてこられて困るわけでもないし良いけどさ


「それにしても久しぶりだね、カレンと2人で出かけるのは」


2年前に耳を触らせて貰ったお詫びに一緒に買い物しに行ったんだよな


「そうですね、2年前は赤い宝石のネックレスをプレゼントして頂いて大変嬉しかったです」


カレンの首には俺があげたネックレスが輝いている。今も付けてくれてるんだな…なんか嬉しい


「気に入って貰って良かったよ」


「坊っちゃまのプレゼントを気に入らない訳ありませんよ、一生の宝物です」


微笑みながらネックレスを大切そうに眺めるカレン


「…ねぇ、カレンって…俺の事…どう思ってる?」


「…坊っちゃまを、ですか?」


「うん」


「カーラ様には失礼に当たりますが、我が子の様に思ってますよ」


我が子…か


「そうか…いやうん、ならいいんだ」


「…?ご不満でしたか?」


「い、いや!めちゃくちゃ嬉しいよ!うん!俺もカレンの事は第2の母みたいに思ってるからね!」


「…っ、そうですか…なら良かったです」


一緒悲しい表情をしたような?気のせいかな


「おお!!リュートじゃないか!!!!」


「ん?ホット!!奇遇だな!」


前から声をかけてきたのはホットだった、隣にアックナルーヨさんもいる


「リュートも買い物か?!!!!」


「いや、ただ暇だったから散策してただけさ。ホットは買い物なの?」


「ああ!!!ちょっとピッケルの予備が無くなってな!!」


「そっか、大変だね」


この2人が並ぶと周りの気温が20度くらい上がったような気がするな…


「…うん?おお!お前はあの時の坊主じゃねぇか!!!!まさかホットと知り合いだったとはな!」


「あの時はどうもです、はは…」


地獄の魔石採掘を思い出す…あれは地獄だった…


「また暇な時は依頼受けてくれよな!!!ガハハハハ!!」


「は、はは…」


訓練にはなるから暇な時には受けてあげよう…他の誰かが苦しむのを防ぐためにも


『素晴らしい自己犠牲精神です』


ステさんが言うと皮肉にしか聞こえないんだよなぁ


「それじゃあまたなリュート!!!!学園で会おう!!」


「うん、またね」


しばらく話したあとホット達と別れた


「いいご友人ですね」


「そうだね、暑いけど良い奴だよ」


「…あの…少し休みませんか?」


「うんいいよ、あそこのベンチに座ろっか」


ちょっと元気がないな?どうしたんだろ


「ふう…暑いな…」


「…」


「カレン…?」


「…本当は…坊っちゃまに今日着いてきたのは訳があるんです」


「…訳…?」


「私…エルフの里へ戻ろうと思います」


「…え?」


いきなりの事で頭が真っ白になる


「…実はもうご主人様とカーラ様には話しておりまして…明後日…ここを発つんです」


「そんな…いきなりじゃないか、何かあったのか?」


「私は…エルフの里にやり残した事があるんです…今までずっと逃げて来ました、でもこの気持ちを受け入れるには過去と向き合わなきゃいけないんです」


「…過去…?」


カレンの過去に何があったというのだろう?


「…1年後…坊っちゃまはエルフの里にも行くんですよね?」


「うん、その予定だけど…」


「その時、もし私に…私に再び会った時は…」



…私を助けてくれますか?




涙を流しながら、カレンはそう言った

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