第百三話

ステさんがレアだと判明して数日後、俺は相変わらず暇な日常を送っていた


「…暇だなぁ」


「ふぁ…眠いねぇ〜…」


「…お兄ちゃん…す、す…うう…」


「ニャフ…」


クロスケも暇つぶしに戯れすぎて疲れきってる…申し訳ない


『誰かと手合わせでもしたらどうですか?戦闘狂のリュート様ならいい暇つぶしになると思いますが』


せ、戦闘狂じゃないわい!ちょっと強そうな人を見ると手合わせ願いたくなるだけだよ!


『それロディ様とロミリア様のお2人と同じこと言ってますよ』


はっ…!そんな…俺まで完璧な戦闘狂になったのか?


「…でも戦うにしても誰と手合わせするかな」


「なになに?手合わせするの?」


「うん、でも相手がいなくてさ…どうしよ」


「じゃあお姉ちゃんと手合わせしよっか!」


「…え?」


数分後


「…どっちも頑張れー」


「まさか姉上と手合わせするなんて…」


「ふっふっふっ…こう見えても学園1の実力を持ってるからね!油断大敵だよ!」


確かに生徒会長だもんな、今の姉上のイメージが強すぎて忘れがちだけど


「そうだったね、なら全力で行かせてもらうよ!」


「うん、まぁ勝つのはお姉ちゃんだけどね…!」


「…2人とも構えて…始め」


「雷魔法:瞬進雷歩!」


始まると同時に姉上は一瞬でこちらに現れ、槍で攻撃する


「貰ったぁ!」


「…水流縛り」


「んな…むぐぐ…」


水流縛りで全身グルグル巻になった姉上、でもすぐ破られそうだな…まだまだ練習が必要そうだ


「むぐぐ…ぬう!効かーん!お姉ちゃんを舐めない事ね!」


しかしよくよく考えると魔法を物理で引きちぎるなんて姉上は人なんだろうか?


姉上とは敵にはなりたくないな…


「ふふん、何でリュートが水魔法を使えるのかはこの際聞かないでおくよ…でもこの勝負、私の勝ちよ!」


「凄い自信だね、何か秘策でもあるの?」


「…ふふ…よく見てなさい…これが私の全力よ!」


「…!魔力感知・魔力瞬進・纏い:剛!」


俺はすぐさまその場から離れる、俺の脳がヤバいと警笛を鳴らしている


「…迅雷魔法:雷神突き」


一瞬だった、さっきまで俺が居た場所は眩い光に包まれ、そして雷鳴と共に深い穴が出来ていた


「…な…」


迅雷魔法?ただの雷魔法じゃない…次元が1つ上の魔法だ…!


「…驚く暇はあるかな?迅雷魔法:雷神突き:5連」


「…嘘だろ…」


連発出来るのかよそれ!


「…纏い:剛円!」


巨大な柱とも言える雷が何度も俺を襲う。雷鳴が響き渡り、鼓膜が破れる勢いだ


「…このままじゃ負ける」


てか死ぬ!姉上本気出しすぎだよ!これ手合わせだから!死合いじゃ無いからね!


「こうなりゃ…学園で勉強に勉強を重ねて、更にロミリア先生にヒントを貰って生み出した新しい魔法を使うしかないな…」


ずっと勉強してた甲斐あって魔法の理論が少し理解出来た、魔法とは何なのかを…どういう仕組みなのかを


「…無属性魔法と光魔法…そして闇魔法を合わせた取っておきの魔法だ」


右手に光魔法を纏い、左手には闇魔法を纏う。そして両手を近ずけ、魔法を混ぜ合わせるイメージ


「魔法って相性が悪い同士は反発するんだぜ、知ってた姉上?…それを無属性魔法で無理やり合わせる!」


水と油を手で無理やりかき混ぜてるようなものだ、不安定で魔力が暴発するかもしれない危険な行為だけど…


「それが威力を生み出す…複合魔法:反魔球はんまきゅう


威力は極限にまで抑えた、これなら直接当たらない限り大丈夫だろう


「…それ…何…?」


何処までも黒い見た目に、中心には白い玉が浮いていおり、周りは無理やり混ぜた衝撃でスパークが走っている


「そんなもの私が打ち消してやるわ!迅雷魔法:雷神突き!」


「…避けた方がいいよ姉上」


俺はその球体を投げた


「…はんっ、甘いね…私の雷神突きならその程度…」


雷神突きが球体に触れ…そして…雷神突きは消滅した


「な、なんなの…?今の!あれに当たったら消えた…!?」


「…それ魔法同士が常に反発しあってるせいで魔力自体を取り込んで消滅させる効果があるんだ」


「…そんなのズルだよ!リュートの天才ー!」


あ、瞬進雷歩で逃げた。捨て台詞まで俺を褒めてるよこの姉…


「さて反魔球は…」


行き場をなくした反魔球は木にぶつかると…木を飲み込むように巨大な玉になり、そして収束して消えた


「うわ…何も残ってないよ…怖…姉上に使うもんじゃ無かった…極限にまで威力抑えたのにこれかよ」


あ、危なかった。姉上には後で美味しいものご馳走様してあげよう…


「…お兄ちゃんの勝利、おめでとう」


「あ、ああうん…ありがとう」


なんかやりすぎたせいで勝ったのが申し訳ないような気がする


「…姉上探しに行こっか」


「…うん」


何処まで逃げたかな〜姉上




あの後遠くまで逃げた姉上を見つけ、数日が経った


「でへへ…リュート〜…」


「くっつきすぎじゃないかな…姉上…」


「…この前の手合わせ…私死ぬ所だったな…」


「うっ…すみません…」


「ふふ…はふう…リュート成分が急激に補充されていく…ふう…」


最近は手合わせの件をネタに好きなようにされている、今は絶賛姉上を膝枕中だ


「…女性がしちゃいけない顔してるよ…」


完全にとろけきってる…俺にはそんな成分が本当に含まれてるのか少し不安になるんだけど


『女たらしの成分ですね』


そんな成分は出ていません


「もうずっとこうしていたい…はぁ…」


「…後1ヶ月ちょっとしたら戻らなきゃね」


「生徒会の仕事が大変で大変で…このままリュートに抱きついていたい…」


まぁ生徒会長だもんなぁ…俺の想像が及ばないぐらい大変なんだろうな 、会長としての重荷とか…


「姉上は凄いなぁ…そんな大変な仕事に逃げないでやってるなんて」


姉上の頭を撫でる


「…リュート…?」


「…俺もね、勇者だとか皆にもてはやされてちょっと参ってたんだ…」


「…うっ…」


何故か姉上が目をそらす


「…それに俺のファンクラブとか出来てたし…」


「ううっ…」


姉上から汗が流れる


「…?でも姉上はそんな期待にも負けずにやってるんだよね?尊敬するよ…本当に」


「…まぁ…ね…私が1番だったから…仕方なかったの、でもそっか…リュートが尊敬してくれるなら生徒会長も悪くないかも」


えへへと微笑みながらこちらを見る姉上


「うん、自慢の姉だよ」


「ふふん、なんたってお姉ちゃんだからね!」


「知ってる、でも…キツかったら言ってよ?」


「…リュート?」


「1人で頑張りすぎるといつかは絶対に人は壊れてしまう、そんな姉上は俺…見たくないから…」


「…うん、分かった」


「…人は支えが必要なんだ、俺が姉上の支えになるよ。どんな事になろうとね」


「…リュート…私…そんな事…言われたら…」


姉上が起きやがり顔が近づいてくる


「へっ…姉上…?」


「惚れ直しちゃうよ…そんな事言われたら…」


やばいやばい…近い…息が触れ合う距離だ、絶対顔が真っ赤になってる


「…顔…赤いね」


「あ、姉上が近いから…」


「…2年前…朝に言いかけた事あったでしょ?」


「え…ああ…好きな人がいるとか…何とか…」


「それ…リュートだよ」


心臓が張り裂けそうなぐらいドキドキと言ってる、姉上が俺の事を?


「…家族として…?」


「…異性としてだよ」


「あ…姉上…が」


何となくそんな気はしてたのかもしれない、いつも俺を気にかけてくれる。最早家族だからと言えないぐらいには…


「…気持ち悪かった?」


「え…?」


「家族なのにね…ごめんね…いきなりこんな事言っちゃって」


姉上が離れる、少し涙目になってる


「…今のは忘れて…やっぱり変だよね…ごめん」


『どうするのですか?』


どうするって…そんなの…2年前から決まってるさ


「…嫌わないでね…いつも通りに姉として接して欲しいな…私も諦め…」


「すぅ…姉上をそんな事で嫌うわけないだろ!!!」


「うひゃあ!いきなり大声だしてびっくりしたよ!」


「ごめん!でも俺そんな薄情な奴だと思われてたのが嫌だったから」


「リュート…?」


「別に姉上のことを気持ち悪いなんて思わないし好きだと言ってくれて嬉しかった!!」


「…!」


「俺も姉上の事が好きだよ!家族としても1人の女性としてもな!姉上が変なら俺はもっと変だよ!」


「…うう…本当に…?私の事…好き…なの?」


「ああ、あんなに優しくしてくれて…俺を大切にしてくれる人、好きにならないわけないじゃないか」


「…リュートぉ…!」


姉上は涙を流して、抱きつく…今思えば姉上の涙を見る時って大体俺を思って泣いてくれてるんだよな


『これは責任を取らなければならないですね』


ああ…そうだね。でも俺、姉上の他にも2人気持ちに応えなきゃいけない人がいるんだよな…


『女たらしの称号を追加します』


勘弁して欲しいけど当たってるから悲しい


「…でも俺…もう既に2人…気持ちに応えなきゃいけない人がいるんだ」


「…知ってる」


えっ…あるぇ?知ってる?なぜぇ?ええ?俺姉上が知ってること知らないんだけど〜


『…何も知らない障壁がここで仇となるとは…』


「え…いや…ええと…姉上はそれでも俺の事好きでいてくれるの?」


「うん…リュートなら平等に愛してくれるでしょ?」


「え…うん、そこはめちゃくちゃ頑張るよ」


なんなら邪神を倒すより頑張るよ


「なら…別にいいよ、お嫁さん沢山いても」


「…そっか…うん…俺頑張るから!皆を幸せに出来るぐらい努力する!」


「…うん!期待してるねリュート」


姉上は今までで1番輝いた笑顔をしていた


「…3人を必ず平等に愛す…うん…頑張ろ」


『本当はあと3倍以上の人数が居るんですけどね…』





ステさんの独り言は俺には聞こえなかった

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