第5話 美織、絶体絶命!
第5話 美織、絶体絶命!(1)
[1]
京都の街は、相変わらず雲に覆われ、ところどころに切れ間が覗く空模様です。
朋美と1年生の男子たち、そして、美織は、五条の病院の玄関から建物の外に出ました。
USBケーブルで美織の手首につながれたアレキサンダー君は、入口ポーチの辺りをふんふんと嗅ぎまわります。
美織が説明しました。
「その生徒手帳の匂いの人は、玄関を出たところで、4人の男の人と合流して、一緒に歩き出したみたいです」
朋美は、「例の2年生や!」と思いました。
五島駈(ごとう カケル)君とその2年生たちは、どういう関係なのでしょう?
「なんや、その人、周りから小突かれてフラつきながら歩いてますなあ?」
美織は言います。
病院の門を出ると、一行は、アレキサンダー君に引かれて万寿寺通りを曲がって東進し、河原町通りに出ました。
河原町通りには、道沿いに大きな店が立ち並び、車道には車があふれ、歩道にも大勢の人が歩いています。観光客らしい人たちもいっぱいです。
アレキサンダー君は、左に曲がって歩道を北に進み、ハンバーガー店の前に来て、そのまま店に入ろうとしました。
「ちょちょ、ちょっと待って、美織!」
朋美は、呼び止めました。
「ここ入ったん?」
「そうみたいです」
「んー!」
朋美は、店に入って、店員さんに尋ねようとしました。
すると、
「あ! お客様、ワンちゃんは、困りますなあ!」
店員さんが注意して来ます。
「は?」
朋美の隣には、美織と、その足元に、USBケーブルでつながれたアレキサンダー君がいます。
「あやや! これ、違います! 匂い探知機です!」
「はああ?」
「あのぉ。人を探してるんですけど、市立東山中学の生徒で5人づれの男子は来ませんでしたか?」
「あー!」
店員さんは、宙を見上げる様にして、
「2時間ほど前に来て、買い物して行かれましたなぁ」
店員さんが言うには、五島君の一行は、店でテイクアウトして、その支払いは五島君がした様でした。
一人だけいた1年生が支払ったので覚えていると言うのです。
(そういう事か!)
朋美は、理解しました。
五島君は、「教材を買う」という名目で病院でお母さんからお金をもらい、一行は、そのお金で飲み食いしているのでしょう。
(2年生やのに!)
これは、もう、部活に誘う誘わないの話ではありません。
「ありがとうございます」
と礼を言って、店を出て、先に進もうとすると、
「せんぱーい!」
1年生の錦小路君が言いました。
「俺ら、昼からなんも食べてへんのですけどォ」
「へっ!?」
「ここらで休憩しませんかぁ!」
「あー!!」
朋美は、声を上げました。
「分かった! ここは、うちがおごるさかい!」
1年生たちは、「やったー!」と喜びました。
それぞれにハンバーガー1つ選ばせて、2階の客室に上がると、美織が、壁際のテーブル席を取って待っていました。
「お! 気が利くやん!」
朋美がほめると、美織は無言で左手を差し出して来ます。
「なに?」
「充電器、貸して下さい」
「は?」
「新機能です。美織も、お腹が空きました」
と言って、朋美のスマホの充電器を借りると、足元の壁のコンセントに差し込み、それを新たに追加された左手首のタイプCポートにつなげて、「つーん」とした顔で充電を始めるのでした。
ハンバーガー店を出て、一行は追跡を続けました。
河原町通りをさらに北に進みます。
アレキサンダー君が次に止まったのは、ゲームセンターの前でした。
「アンッ!」
と吠えると、アレキサンダー君は店に入って行こうとします。
「あ! 先輩!」
今度は、佐久間君が言いました。
「マズいですよ、ここは! 俺らだけで入って、先生に見つかったら」
佐久間君の言う事は、朋美にも分かりました。
大原君も言います。
「先輩、出場停止とかになったら」
「んー」
朋美もうなりましたが、
「うちらは人を探してるだけや! あんたらは、道で待っとって!」
「ほな! 僕が一緒に行きますよ!」
木屋君が言いました。
「僕なら、陸上部と関係ありませんし」
美織と3人で店に入って、ぐるっと回って出て来ました。
店で聞いたところ、五島君たちは、飲み食いしながらしばらく遊んで、出て行った様子でした。
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