第2話 間と間

「60メートル先、敵の野営地。見える」

 腰くらいの高さにある茂みに隠れながらサーモグラフィで敵の位置を把握する。便利なもので、目線一つで敵までの距離を算出してくれる。

「ああ、見える。歩哨は……、こっちからだと6人見える。そっちからは?」

 画面の向こうで談笑している敵歩哨をスナイパーのスコープの中心に添える。

「こっちからも6人。撃てる?」

 引き金を引くために、ゆっくりとセーフティを解除し、引き金に指をかける。そして、呼吸を整え、

「ああ、いつでも」

「了解。じゃあ、自分は近づくけど、いい?」

 耳元から味方の声が永遠と鳴り響く。

「ああ、いつも通り。援護は任せろ」

「こっちの合図で、はじめるね」

 彼は一切返事をせずにただ、じっと、撃つ瞬間を見極める。スコープは少しばかり揺れるが、それでも、そんなに問題はない。


 味方はゆっくりと敵の近くに行き、ショットガンを構えた。そして、胸に付けている閃光手榴弾を取り出して敵の目の前に投げ込む。談笑していた6人は急に現れるあまりにも大きな光のために目を瞑るが、それでも、瞼の奥に染みこんだ白い靄は目を開けても腫れることはない。あまりにも大きな音と光のために感覚が麻痺した歩哨たちはよろめきながら、何も出来ずにいた。


 味方は、好機とみて一人一人ショットガンで倒していく。一方彼も、しっかりと歩哨の頭を撃ち抜いて、瞬く間に6人を殺した。

「多分、クリア」

「多分じゃなくて、はっきりとクリアして」

「了解。ちょっと待ってて」

 味方は、拳を握り、しゃがんだ状態で地面を殴った。

 パッシブスキルの一つにソナーを内蔵した改良型機械腕で動態反応を探した。


「そっちから、目の前のテントの中、見える?」

 彼はスコープをすぐに向けるが何も見えなかった。

「いや、見えない。そこだけなら、そっちに合流する」

「了解。テントの周りを確保する」

 彼は、バイポットを折りたたんで、スナイパーを担いで、斜面を駆け下りた。もちろん、一つ一つしっかりとクリアリングをしながらである。

 テントの近くで合流した後、彼はハンドガンに持ち替えて、テントに近づく。正面に立ったとき、中から声が聞こえた。何を話しているかは分からなかった。彼は、ゆっくりと扉に手をかけ、少し開けた。その隙間から、味方が再び閃光手榴弾を投げ込み、中に入り込んだ。


 中で固まっていた敵は、さっきの外の連中と同じようにのたうち回る。彼は勢いよく中に入り、一人一人確実に頭を撃ち抜いていく。

「おお、凄いな。胴体でも大概一発で死ぬゲームなのに、どうして頭を狙うの?」

 味方はチャットで素朴な疑問を投げかけてくる。彼もまたチャットで簡単に変身する。

「ポイントが高くなるから」

「ああ、なるほど、さすがリアルランキング一位の人は違うなー」

「ごたごた行ってないで、ベースキャンプに戻ろう」

 彼は、敵の死体から金目のものを剥ぎ取ってキャンプへと戻ろうとするが、外にいる敵から剥ぎ取ったとき、不思議な光景を目の当たりにした。


 敵歩哨の一人から家族写真が出てきた。

「なあ、これなんだろうな」

 彼は、味方を呼び出して苑写真を見せつけた。

「? なんかあるのか?」

 彼の目の前に立っている味方に写真を見せるが、反応が返ってこない。

「何も持ってないじゃないか。はは、からかうなよ」

「え、そういうわけじゃ……」

 彼には理解できなかった。目の前にある写真は妙にリアリティがあった。しかし、次の瞬間にはその写真は目の前から消え失せていた。


 確かに彼はこの出来事にあまりにも違和感を覚えた。彼がしているこのゲームは確かにリアリティの高さが売りだが、敵の死体から家族写真が出るほどリアリティが高いわけではない。そして、なによりも、これまで消えることのなかった物品が目の前から不自然に消失したことがこの違和感を違和感たらしめる要因となった。


 しかし、彼はその違和感を端において、ベースキャンプへの帰路についた。その間も、緊張を続けながら、その違和感をどうにかして解消しようと自分なりに頭を回転させたがついにその答えは出なかった。しかし、どういうわけか運営に報告する気も起きなかった。彼の中に、何か大きな、胸の奥に無視しようと思えば出来たのかもしれないが、それでも、つっかえた何かがあった。そして、それは人を動かすには十分すぎる動機でもある。


 彼は、ログオフしたあと、すぐにベッドに潜った。本来ならもう一度探索に出ていたが、どうにも、集中できそうになかった。集中力を欠くと言うことは、それはあの世界での死を意味している。それはどうしても避けたい事情があった。


 そこからというものの、どうしても眠りにつくことは出来なかった。そして、ベッドの中で何度も何度も頭の中で同じ事がずっと駆け巡っていた。

「もし、あれが現実なら……」

 これ以上考えたくはなかった。しかし、その先へと進まなくてはならない、そんな予感だけがしていた。しかし、気がついたときには深い眠りについていた。

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