OW ―オンラインウォー―

初瀬みちる

第1話 前奏 戦争の世界 

 戦争はどの時代になっても起こり続けている。それは、今もなお続いているし、そして、これからも形を変えて、ありとあらゆる方法を持ってして人間を殺し続けるのだろう。

 

 近代以降、戦争は遠くの話ではなく、「私」の隣にある事柄だった。より正確に言えば、戦争の本質は変わらないが、それに参加する人たちが大きく変わっていった。貴族の権力誇示の場から、国家の威信(存続)を賭けた勝つことではなく、相手を負けさせる、負けを認めさせる戦争へと変わっていった。国家間の戦争が恒常化していく中、短く、脆い戦争が続いていた。しかし、或一発の凶弾が、歴史上、最も成功しただろうと考えられる暗殺が人間を燃料として燃やす戦争へと変化させた。『全ての戦争を終わらせるための戦争』そんなきれい事のために何千万という若者が従軍し、そのうちの半数近くが死んだ。


 その瞬間、戦争は「私」事となった。紙一枚で戦争に行く事を求められ、人を殺すことを求められる。敵は人間ではなく、家畜と教えられ、その家畜を撃つことは何ら問題ないとされる。良い兵士は『敵を人間として見なさない』のだろう。ただ、義務の命ずるままに引き金を引き、そこに、ある種の神秘的瞬間を得ることとなる。ありとあらゆるものを破壊する戦場において、新兵はそれを成人の儀式と受け入れ、そして、英雄となることを願う。


 そして、若者たちは英雄とは何であるか、自分が今まで願ってきたものがいかに虚構であるのかを知る。


 停滞した戦場は流動性を持った、圧倒的速度を持った戦争へと変化した。変化したはずが、最も凄惨な戦争と変化し、流動性を持ちながら、前の大戦よりも長く続き、そして、それ以上に何千万という人が亡くなった。


 戦争は再び変わった。国家同士の全面戦争から、大国を仲介して、民族同士の仮初めの、大国のイデオロギーを代表する戦争が行われた。しかし、大国同士は一切表立った戦争は行わない。繰り返されるのは、大国の国民ではない人たちの死である。確かに、大国が直接介入する事はあっても、大戦争には至らなかった。


 そして、戦争はさらにまた、大きく、無責任に変化する。民族をズタズタにされた恨みを大国へと変換し、大国に対して全面的な戦争ではなく、ありとあらゆるところで繰り広げられる新たな流動的な戦争。復讐心が新たな復讐心を生み出した。大国はそれを逆恨みする。自ら招いた憎しみに自ら焼かれる。そして、大国はこう叫んだ。「我々が攻撃を受けるいわれはない」と。


 戦争は我々からまた遠のいた。リアルタイムで戦争を理解できる時代に生きながら、我々はリアルタイムで行われている戦争がいかなる戦争かを知らない。知る事は出来るが、それを知る人はいない。何でもネットという広い世界から拾うことは出来るが、それの選択権は我々に委ねられている。そして、我々は常にその選択の内、最も楽な道を選んで、知らないを誇り続けた。


 世界は最も近くなりながら、最も遠くなった。我々はネットという大きな世界に住みながら、ネットの向こう側にいる「私」が何者なのかを我々は知らない。画面の向こう側で行われている戦争がそれが真実であるのか、事実であるのか、虚実であるのか何も知らない。だからこそ、我々は無責任でいられる。


 そして、再び戦争は変わった。戦争の大半が人間の手から機械の手へと変わっていった。殺意なき戦争。全ては自律機械によって手に握られた雑多な銃を撃ち続ける。撃たれるのは人であったり、別の国の機械であったり。それは、いろいろな形をとるようになった。そう、これからの戦争は全て我々の手から離れた戦争。乖離した戦争。誰も死なない戦争となった。


 昔、イギリスの作家は「戦争とは平和である」と語った。それは、そこに消費と供給が生まれ続けることによって、常に経済が発展するからであり、経済の発展はそれこそ、平和へとつながる。戦争の存在は、というより、共通の敵を作ることによって、そこから反するために団結する。なるほど、「戦争とは平和である」国家という共同体が一つの目的のものとに集う。それは平和なのだろう。


 では、現代では? 無関心が根幹にあるこの現代において平和とは何であるのか。それは簡単である。それすら考えることのない、この状態が平和なのだろう。だから、これから語られる物語はその平和を考えなければならなくなった物語。僕が無責任な人間から責任ある人間へと変わろうと志す物語である。

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