第104話あんた、私と友だちにならないか(そんなの嫌に決まってるじゃないですか)

「あんた。私と友だちにならないか」

 それがあのひととの最初の出会い。

 鋭く、真っ直ぐ、正確に、わたしの痛いところに拳を叩きこんだひと。

 綺麗だけどヘンな髪をした、けどとっても格好よかったひと。

 祈跡ほこるきせきほこるが、わたしにくれた本気の言葉。

 本物の、想いと気持ちがこもった言葉。

 あのひとの意志のかたち。

 あのときわたしは、その意志と言葉にこたえなかった。

 そしていまでもわたしはその言葉といしに、こたえることができていない。




「こいし、一体こっちに向かって来るよ」

「りょーかい!」

 ってわたしはミドリに答えを返すけど、それには言われるまえからきづいてた。

 高いヒールを履いててもわかる、足の裏から伝わる小さな揺れと。

 隠す気なんて全然ない、大きく響くにぶい音も。

 そして必死な気配に。

 それが一直線に迷いなく、わたしのほうに走ってくるのを。

 わたしは両手に持っていたを地面に放りすてるように叩きつけた。

 そのときグチャっとかゴキャっとかがしたけど、わたしはそんなの気にしない。

 手足がもげたり曲がったりもしてるけど、そんなことも気にしない。

 だって、頭はもう潰してるから。

 ちゃんと殺して、死んでるのを確認してるから。

 いきてないヤツがどうなろうと、わたしの知ったことじゃない。

 それはいきてるヤツが相手でも、おんなじことなんだけど。

 そうやって、こっちにくるヤツをお出迎えできるよう準備する。

 わたしは空になった左手でエグイアスを握って、さてどうしようかと腕をくむ。

 には無駄なものが一切ついていないので、非常に腕がくみやすい。

 わたしの数少ない利点と特技に数えてもいいくらいだ。

 なんだけど、それはいまは置いといて。

 ひとりで向かってくるなんて、

 そんなヤツ、このを始めてから初めてみるかもしれない。

 そういう、どんなをするのが一番いいか思いを巡らす。

 選択は一瞬。

 決断も同時。

 うん、やっぱりにしよう。

 場所も丁度よくおあつらえ向きだしね。

 いまわたしたちは建物のかげにいる。

 ということは、こっちに向かってきてるヤツにはわたしたちはみえていない。

 それでも、わたしたちがここにいることは

 このまま目の前までくるのを待ってていいけれど、でもそれじゃあ

 だったら、面白おかしくやらなきゃね。

 それに、まあそんなことはまさかだろうし。

 よし。それじゃあ、せーの。

「ばあー!」

 わたしは建物のかげからヒョイッと身体をだして、両手を顔の左右に広げて相手を驚かせるようにする。

 それをみたヤツの反応は、わたしの想像以上だった。

 そんなにびっくりしなくていいだろうというほど背中をそらし、そのせいで急ブレーキがかかったのかそのまま前につんのめって、わたしの足もと近くまでゴロゴロと転がってくる。

 わたしが顔をだしたときにはまだ大分距離があったから、ぶつかったりはしなかった。

 でもそこからのヤツの動きは、わたしの想像とは違っていた。

 ヤツはわたしと一瞬たりとも向きあったりしはしなかった。

 起き上がった瞬間回れ右して、いまきた道を反対方向に全力で逆走していった。

 これは想像とは違うけど、これを想定してなかったわけじゃない。

 でも、まさかホントにそうだなんて思わなかった。

 まさか、

 わたしはため息をつきながらエグいアスを担ぎなおす。

 そうして思いっきり肩すかしをくらってがっかりした気分のまま、遠ざかっていくヤツの後ろ姿を確認する。

 その背中、そろそろ見飽きてきたんだけどなあ。

 そう思いながらそこらに落ちてた石を拾いあげ、その見飽きた背中をめがけて投げつけた。

 身体のどっかに当たればいいやと思って投げた石は、逃げてくヤツの右後ろ足に命中した。

 石が当たったとこから下の部品が、破裂したみたいに千切れてくるくる回って飛んでいく。

 足を一本なくしたソイツはまたしてもすっ転び、大根おろしみたいに地面のうえを滑ってく。

 でも、今度はすぐには起き上がれなかった。

 わたしはそこまでタッタッタッと近づいて、無様に倒れたままのソイツを見おろす。

「どうせなら、最後に根性みせればよかったね。どっちみちおんなじなんだから」

 わたしはよっこいしょっと、エグいアスをソイツの頭のうえで構える。

「この世界にきたときから、オマエラに逃げ場所なんてどこにもない。だってわたしがオマエラを、たったひとりも逃さないから」

 言いながらエグいアスを振りあげると、逆光になったわたしとエグいアスの影がソイツの頭にさきに落ちる。

 それが多分、ソイツの目がこの世界を映した最後のもの。

「じゃ、そういうことで」

 軽い言葉と一緒に降りおろした重い一撃は、生卵より簡単にソイツの頭を砕いた。

 そして地面にまた一輪、汚い花を咲かせる。

 見渡せば似たような花が、地面といわず建物の壁といわずあたり一面そこら中に咲いていた。

 ようやく念願だった魔法少女になってまだ数日。

 その赤い花畑は、はやくもわたしのみる日常の風景になっていた。

 ホントを言うと、こんなのもうとっくに見飽きちゃってるんだけどね。

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