第85話わたし、魔法少女になりました そのよんじゅうに(ひとのために悪いことをするのはわたしの意志じゃありません)

「あんたが、わたしを、魔法少女にしたんだよね?」

 わたしはさっきと同じ言葉を繰り返す。

 その理由は、単純明快。

 ひと言ひと言、噛みしめるようにゆっくりと。

 同じことを繰り返すのは、同じ結果がほしいから。

 もう一度、見たいものがあったから。

 だけど今度は同じ言葉で問いかける。

 いち語いち語、噛みくだくようにじっくりと。

 その目的は、簡単明瞭。

 ちょっと変わったことを試すのは、変わった成果がほしいから。

 さっきとは、違うものが見たいから。

 わたしは

 そんなこと、

 そうして噛んでふくめるように言葉を放つ。

 その言葉の針のひとつひとつで、ミドリのこころを突き刺すように。

 その手段は、卑怯で卑劣。

 そしてとっても悪いこと。

 だってこういうふうに訊いちゃえば、ミドリがなんて応えるのかわかるから。

 こう訊けば、ミドリはわたしの言葉を否定できない。

 こんなかんじで訊きさえすれば、ミドリの答えがなんなのかわかるから。

 こうやって訊いてしまえば、わたしの言葉をミドリは肯定するしかない。

 だからこれは、ズルくて、セコくて、あさましい、

 わかっていることを、わかっていながら、わかったままやっている、

 自分がわかっていることを聞きたいから、ひとに言わせる卑怯な言葉。

 自分でわかっているからものが欲しいから、ひとに答えさせる卑劣なこと言葉。

 そんな、わたしの言葉。

 立っているものは親でも使え、なんて言葉もあるけれど。

 まあ、それはもう使えなくなっちゃったんだけど。

 使使

 それでも本人はともかくとして、使、全部まとめて活用させてもらうとしよう。

 使えるものは何でもかんでもとにかく余すところなくとことん使えという教えを、実行させてもらうとしよう。

 たとえば、使

 いまの自分の立ち場とやらを、全部利用してみよう。

 わたしはあんたたちにただ遣われただけっていう、

 あくまでもわたしは被害者で。

 わたしはどこまでもいっても犠牲者な。

 哀れで、不憫で、気の毒な、

 そんなわたしの言うことを、ミドリが受けいれないわけがない。

 だってミドリはわたしが訊いたら、

 それが自分の立ち場と自身の言葉をとことん使った、、わたしのやり方。

 それはどこかのなにかを思い出す。

 なにかがどこかに引っかかる。

 つい最近、

 それはわたしがされたら、嫌なこと。

 これはわたしがするのも、嫌なこと。

 ホントなら、

 でも、しょうがないよね。

 こんなことですむのなら、

 この程度のことならやっちゃうよね。

 いままでと同じようでちょっと違う、変わったものが見られるなら。

 あんたの、姿

 またあんな姿を、見せてくれるんだとしたら。

 やらない理由はひとつもない。

 やる目的はいっこだけ。

 そのための手段は、何でも、どれでも、

「ねえ、どうなの? 

 そうしてわたしは応えを急かす。

 わかっている答えを催促する。

 だっていままでは、こたえを待っているこの時間を無駄なものだとしか思えなかった。

 だけどいまはこんな時間でも、

 そうやって汚れた言葉を重ねるわたしをちゃんとみて、ミドリは小さくこたえをこぼす。

 こんなわたしを見かねたのか。

 こんなわたしに耐えかねたのか。

 どっちなのかはわからない。

 けれどそんなの、どっちでもいいことだ。

 こたえてさえくれるなら、何だっていいことだ。

「うん、そうだよ。ボクがキミを、

 そのわかりきっていた答えを聞けて、わたしはこころゆくまで満足できた。

 そのとき聞いたミドリ声に、チクリと胸が疼いたけれど。

 こんなことをした自分自身に、ズキリとこころが痛んだけれど。

 そんなことは全部どこかへ吹き飛ぶくらい、ゾクリとが脈をうつ。

 ミドリのあんな姿を見られたことに。

 そしてそれ以上に、

 自分の嫌なことをこそ、ひとにしてあげなさい。

 言われたときは、なんでしなきゃいけにのかわからなかった。

 だけどいまなら、それがわかる。

 いまのわたしならその言葉が、

 悪いことをひとにするのがこんなに気持ちがいいのなら。

 、やらなきゃいけないことなんだって。

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