第82話わたし、魔法少女になりました そのさんじゅうきゅう(わたしの過去がわたしの意志を自由にします)
わたしの過去が言っている。
そこに映ったカラッポのまぼろしが、せめるようにささやいてくる。
蟲の羽音に似た声が、震えるようにこだまする。
我慢なんて、しなくていい。
わたしの勝手に、やればいい。
わたしの全部を、そのまま吐きだしてしまえばいい。
だから、そうしているわたしのことが、すっごくみやすくなるんだって。
そうすれば、楽になれると。
そうすることが、
過去がわたしを苛んでいる。
そこに巣くった暗いかげが、とがめるようにふきこんでくる。
うごめく蟲のように軋んだ音が、言葉になって響きだす。
耐えなければ、ならないの。
あなたの好きには、できないの。
あなたの全ては、そのまま閉じ込めておかなければいけないの。
だけど、そんなことをしているあなたのことは、とてもみにくくなってるわ。
それは、ひとのすることではないわ。
そんなことをしていては、
ひとつしかない過去が、ふたつの姿でわたしのことをくるわせる。
あたまのなかをグチャグチャにかき乱し。
こころのなかをグズグズにかき回す。
どっちも同じものなのに。
変わらないもののはずなのに。
そうしておんなじ声で、わたしを痛めつけてくる。
鏡合わせに映るふたつの言葉が、わたしをふたつにひき裂いていく。
どっちも違うことを言ってるのに。
変わることのないもののはずなのに。
どうしておんなじ意味で、わたしのことを苦しめる。
合わせ鏡のあいだのわたしを、言葉でひとつに圧し潰す。
たかが、こんな
もう終わったものなのに。
とっくに過ぎたことなのに。
それにたかが
なんにしたって、どうしたって。
どっちだろうと、どっちにしたって。
全部、
所詮、わたしの一部にすぎないはずなのに。
なのに、なんで。
過去がいまのわたしを創りあげたんだとしても。
なんで、いまさらわたしを惑わせる。
いままでの過去にわたしが育てられたんだとしても。
なんで、いまのわたしを悩ませる。
こんなもの、わたしの自由にできるはずなのに。
なんでこんなものに、わたしが自由にされなきゃいけないんだ。
わたしの過去が、わたしのことを塗り替えていく。
からだも、あたまも、こころも全部。
蟲が足下から這いあがってくるように、わたしをひとつに染めあげる。
ふたつの筆を使っても、塗られる色はただひとつ。
とてもひとには見せられない。
わたしのなかみと、同じ色。
もう何色ですらない、
それはあらゆる汚れに塗れて汚れきった、どこまでも不純なほどに黒い黒。
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