第81話わたし、魔法少女になりました そのさんじゅうはち(わたしの意志はわたしの過去からできてます)

 わたしはわたし。

 わたしだけはわたしのもの。

 わたしの全部がわたしだけのもの。

 どれだけそう思っていても、どうしても消せないものがある。

 そこにはわたしの産んだまぼろしがある。

 どんなにそう思おうとしても、どうやっても残ってしまうものがる。

 そこにはわたしの堕としたかげがる。

 後ろを振り返ればいつでも見られる。

 前を向いててもふとした拍子に見せつけられる。

 たとえどこへ向かっていたとしても、

 星を目指してかけ昇っていたとしても。

 地の獄に牽かれて転がり落ちていったとしても。

 そこには消せない痕が残り続ける。

 前でも下でも上でも後ろでも。

 どこかへ向かってひとが進み続けている限り、そこに足跡は印される。

 ひとがいきた証して記される。

 いったい自分がどんなモノなのかを保証され。

 どうやって自分がそんなモノになったのかという証拠。

 ひとなら誰でももっている、誰かになった過程の標。

 消したくても残り続けて、残したくないのに消えることなく在り続けるもの。

 それが過去。

 誰でも一度は消してしまいたいと思うもの。

 誰でもひとつは残したくないと思うもの。

 逆に消したりしないでずっと残しておきたいなんて思うひとは、きっと

 なんて、

 自分の過去を、受けいれることができるんだから。

 思い出すことが、苦しみじゃないなんて。

 自分の過去に、誇れるものがあるんだから。

 思い出が、痛みじゃないなんて。

 わたしでもそれはもっている。

 わたしがどんなモノなのかという保証。

 こんなわたしでもちゃんとある。

 どうやってわたしになったかの証拠。

 数えるためにようやく両手を使える程度の時間だけしかないけれど。

 ここまでその時間をいきていたという証がしっかりと、わたしのなかには消されることなく残ってる。

 これからさきの時間がどうなるのかは、まだわからないけど。

 けれど、その時間を消したいと思ったことはない。

 痛みにまみれた思い出しかなくっても。

 だけど、残しておきたいと思ったこともない。

 思い出しても苦しみしかなかったから。

 ただ、最初から、とは思ったことはある。

 最初から、と思ったことはある。

 けどそれも、思うだけで終わってしまったこと。

 叶わなかったわたしの願い。

 果たされなかったわたしの望み。

 だけどそれでも。

 あれもこれもそれも、全部ひっくるめてわたしのもの。

 わたしの願ったものじゃないものが混ざっていても。

 わたしの望んだことじゃないものが交じっていても。

 もうその全部が、

 いまのわたしをかたちづくる血肉になって。

 わたしの想う、いまのわたしになっている。

 そのわたしのものだけのはずの過去が、いまのわたしを蝕んでいる。

 

 そこに映るまぼろしが保証だというように。

 そこに巣くったかげが証拠だというように。

 そこに、わたしのこころを蟲喰んでいる。

 チキリチキリと軋んだ音を、耳の奥で響かせながら。

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