第75話わたし、魔法少女になりました そのさんじゅうに(どうして言うべき言葉をわたしの意志は言えないのでしょう)

 それは中身のない殻から鳴った音。

「どうしてそんなこと言うの?」

 それがわたしのくちからこぼれた言葉。

 こうなるのがわかっていたのに。

 わかっているのにとめられない。

 それはカラッポの中身から響く声。

「ねえ、なんで?」

 それがわたしのこころからあふれた想い。

 こうなるってわかっているのに。

 わかっていたのにとまらない。

 わたしとミドリ、ふたりは違うなんだから。

 思いが変わらないわけがない。

 同じ想いなわけがない。

 こんなの、当たり前のことなのに。

 わたしから訊いてしまったことなのに。

 どうしてわたしは思ってしまったんだろう。

 そのせいでミドリを傷つけておきながら。

 わたしのことをミドリなら、

 ミドリの想いを知りたかったから訊いたことなのに。

 どうしてわたしは思わなかったんだろう。

 そのためにミドリが傷ついていくのを黙って見ておきながら。

 ミドリでもわたしのことを、

 そこまでして応えてもらった答えに、

 

 こんな不条理なことがあるなんて。

 こんな理不尽なことになるなんて。

 たしかにわたしはミドリに訊いた。

 あんたもそう思ってる? って。

 わたしと一緒のことを思ってる? って。

 でも、ホントにわたしがミドリに訊きたかったのはそうじゃない。

 わたしがミドリに望んでいたのは

 

 だけどわたしは「そうだよ」って言ってほしかったんじゃない。

 肯定してくれることを望んでたわけじゃない。

 むしろ「違うよ」ってわたしに言ってほしかった。

 否定してくれることを望んでた。

 だって、そうじゃないとミドリがあいつらと変わらなくなってしまう。

 わたしのことをどう思っているか。

 あいつらとミドリが同じになってしまう。

 わたしのことをどういうふうに想っているか。

 それだけは嫌だったから。

 わたしはただ、したかっただけだった。

 あんたは、あいつらとは違うよねって。

 そのためにわたしの思いを否定して。

 そのためにわたしの言葉を肯定してくれればそれでよかった。

 それだけでよかったのに。

 なのにどうしてミドリは、

 どうしてわたしが魔法少女になったことを認めてくれないんだろう。

 その理由と理屈がわからない。

 最初に言いだしたのは、

 だからっていまのわたしがミドリに言うべき言葉はじゃない。

 わたしがミドリに言っていい言葉じゃない。

 わたしがたったひとつ、たったひと言しかないというのに。

 そのたったひと言が何なのか、わたしはちゃんと知っているはずなのに。

 こんなとき何て言えばいいのか、わたしはちゃんとわかっているはずなの。

 だって、わたしは。

 なのに、どうしてわたしは。

「ねえ、どうして? なんでそんなこと言うの?」

 こんな冷たく乾いた中身のない言葉で、

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