第74話わたし、魔法少女になりました そのさんじゅういち(わたしの意志はひとが傷ついていくのを見ていることができるんです)

「キミのその問いにボクが答えることを許されるなら、応えよう」 

 らしくもなくそんな前置きをしてから、ミドリはわたしの訊いてしまった問いに応えてくれる。

 いまが最初で最後だった。

 そこがミドリの踏みこむ最初のラインで。

 それをわたしが止められる最後のチャンス。

 いまならまだ間に合う。

 これ以上、ミドリを傷つけてなくすむ。

 いまならまだやめてと言える。

 これ以上、ミドリを深く傷を傷つけなくてすむ。

 わたしがつけてしまったキズを。

 わたしがさらに抉ることはない。

 これ以上、

 負債も債務も、背負わなくていい。

 だって、わたしがたったひと言嫌だと言えば。

 ミドリはに応えることがわかるから。

 ミドリはわたしがホントに嫌なことを決してしないと、信じることができるから。

 それは自分だけのためにある浅ましい信頼。

 相手がわたしを信じてくれているのを知っているから、わたしは相手を信じることができる。

 わたしが信じる相手だから、相手はわたしのためにならないことはしないとはずだ思うことができる。

 それはわたしなんかを信じてくれていることをした卑しい信用。

 それでもそれに縋ってしがみついて利用すれば、この話はこれでお終いにできる。

 この話はここまで、先に進むことはない。

 そうすればミドリも、これ以上傷つかなくてすむ。

 だけど、わたしは黙ったままだった。

 黙ってミドリの言葉を待っていた。

 そこまで答えに興味があったわけじゃないはずなのに。

 そんなに答えがほしかったわけじゃないはずなのに。

 わたしはミドリがわたしをどう思っているのか知るためだけに。

 わたしは自分の意志でミドリを傷つけたまま。

 ミドリが傷ついていくのを黙って見ていた。

「もったいないとキミの言葉を借りるなら、いや、最初にこの言葉を使用したのはボクの方か。けどどちらにせよ、ボクの想いは変わらない。キミにはたくさんの選択肢があったり。そして多くの決定権があった。何処へでも好きに行くことができ、何処にでも好きなところに辿り着くことができたんだ。その可能性がキミには。もっと色々なものを見て、様々なものに触れて、健やかに育っていくことができた。この世界に価値がないものがあることを知っていても、、たったひとつの物差しではかるのではない。でここがどんな世界なのかを判断し、感じることがキミには出来るはずだったんだ。は全て失われてしまった。そのために今後。だからボクは……」

 そこでミドリは言葉を切った。

 ここから先は言ってならないと思っているように。

 ここから先へ行ってはいけないと感じているように。

 それでもミドリは言葉を継いだ。

 それはひどく苦しそうで、でも痛々しいほど懸命で、まるで自分のこころを捻るように絞りだされてボツりとおちた。

「ボクはキミが魔法少女になってしまったことが、何よりもったいないことだと思っている」

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