第68話わたし、魔法少女になりました そのにじゅうご(わたしの意志をひとに決められたくありません)

「それで、さっきの心理テストみたいな質問はいったい何だったの?」

 こころのなかのごちゃごちゃを片付けて、わたしはミドリに訊きなおす。

「もしかして、なんかわたしのこと試したの? 知らないかもしれないから一応言っとくけど、わたしされるのって、かなり嫌いなんだよね」

 わたしは、自分をひとにがたまらなく嫌だった。

 たとえそれが、どんなことであったとしても。

 もっと言うなら、そうしたあとにわたし見るひとの目が、どうしようもなく嫌だった。

 そこに浮かぶのが哀れみでも、情けでも、思いやりであったとしても。

 そうやってわたしを勝手に決めつけて見ることそのものが、

 そのことに全然きづきもしない、あの、わたしは気に入らなくてしょうがなかった。

 抉り出して潰してしまいたいくらいに。

 だからわたしは、ひとに試されるのが嫌いだった。

 なのでこのことについては、わたしがテストの点数や身体検査の結果に思うところがあったりするからとか、そういう理由じゃ全然ない。

 そもそも、思うことなんていっこもないし。

 いっこもないんだから、関係なんてあるわけない。

 うん、よし、そうだ。きっとそうに違いない。

 そういうことにしてさえおけば、間違いはない、はず。

「キミの推測通り確かに知りはしなかったけれど、何となくキミが思っていたよ。でもわざわざ教えてくれたキミの配慮には、ありがとうと感謝の言葉を述べさせてもらうよ。ボクはキミの嫌なことはしたくない。キミに嫌われたくないからね。だからさっきの質問はキミを試したわけじゃない、ただ確認したかっただけだよ。キミがひとに何を思い、キミがひとをどう想うのか。その起源と根源を」

 わたしの嫌なことはと言わないあたり、ホントに実にあんたらしい。

 実際あんた以外からそんなこと言われても、わたしは絶対信じたりしないだろうけど。

「ふーん、それで、なんかわかったの? 愛だとか恋だとか訊かれても、わたしが答えられるのは、というかわたしがしっててわかるのはあれくらいしかないんだけど。それともそれって、何か魔法少女に関係あったりすることなの?」

 愛とか恋って、なんとなく魔法少女っぽいし。

「魔法少女には直接の関係は特にないかな。これはあくまでも、ボクがキミのことを知りたくて訊いたことだから」

 わたしの何を知りたかったのかはイマイチよくわかんないけど、それを知るために愛とか恋とか言いだしたのか。

 小学生に向かっていったい何を訊いてるんだか。

 でも最近の小学生はススンでるらしいし、これくらいもっと簡単に、もっと答えられたりするのかな。

 うん、ちょっと待てよ。じゃあそれをよくしりもせずわかってもいないわたしは、もしかしてオクレてるのか?

 ただでさえ小さくて足りないのに、ここからさらにオクレてるだと?

 いやいや、そうじゃない。これはわたしには必要ないものなんだ。

 必要のない、無駄で要らないものなんだ。

 ああ、そうそう、きっとそうに違いない。

 そういうことにしておくのが、間違いのないこと、だと思う。

 でも念の為、あとであの子にも訊いてみよう。

「それじゃあわたしって、?」

 愛も恋もないもってない魔法少女は、それでも魔法少女でいいのかな。

「ボクの質問は魔法少女には関係しないって答えたばかりだよ」

「いいの、気にしないで。これはあくまで、わたしがわたしのことを知りたくて訊くことだから」

 自分のことでわかんないことがあったら、知りたくなるのが当たり前だよね。

 だったら自分で考えろって言われたらそこまでだけど。

 だけどあんたは、訊かれたことにはちゃんと答えてくれるもんね。

 それはいままでのことでわかってるよ。

「魔法少女としての力量や才能を上での目安として、本人の持つ魔力の総量と強度が最も解りやすい指針とされるている。魔法少女はこの魔力を用いて、己の魔法を行使したり、アルターイドを運用したり、自らを強化して〈エゴグラム・クオリアみている世界が違うもの〉と戦い倒すんだ。そしてこの魔力は。とは言ったものの決してそれだけで決まるわけじゃなく、本人の素質や資質に依るところも大きいから一概にして同じ括りで論じることはできないけどね。そうそうそれでキミの場合だったね。先程の問いに一言で答えるなら、キミはこれ以上ないほど魔法少女に向いている。これは異常な位にね。前にも言ったと思うけどキミほどの適正と順応性を持った子は滅多にいないよ。まるで。そしてキミほどやる気に満ちた、熱意を持って仕事に臨む魔法少女もそうそういないよ。ボクの知ってる限りだと噂に聞いたあの……」

「ストップ! わかった、もうわかったから。もうそれ以上言わなくていいから」

 それ以上聞いたら、何だかどこかでばったり出逢ったりしちゃいそう。

 わたしはちっとも逢いたくなんかないんだから。

 だってわたし、人見知りするし。

 というよりも、わたしは

 それにしても才能か。わたしには一生縁のないものだな。

 だって初めからなんにもないんだもん。

「そうかい、それじゃあここまでするとしようか。キミが人見知りを通り越してひとに恐怖を抱いていることは、先程の質問の答えと合わせて考えればそれほど意外なことでもないのかもしれないね。それはキミの、。そしてそれ以外でもキミについて新しい情報を知ることができたのは、ボクにとって嬉しいことだよ」

 なんだか随分と、わたしのことをわかってらっしゃるようで。

 これが一を聞いて十を知るってやるなのかな。

 けどミドリの場合はさらに、ひとつのことを訊いたら少なくともその百倍は返ってくるけど。

「それで、わたしについて知れた新しいことってなあに?」 

 わたし何の気なしにそう訊いてみる。

 だけどそれは確認するためだったのかもしれない。

 ミドリがわたしのことを、どこまでわかってしまっているのか知るための。

「それはね、キミはこの世界に価値のないものが存在してることをわかってるのと同様に、この世界に無償のものは何も無いと思ってしまっていることをだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る