第59話わたし、魔法少女になりました そのじゅうろく(わたしの意志はこのちいさな胸のなかにあるんです)

 あんたがそう言ってくれるなら、わたしはどこにだっていってやる。

 誰の限界かなんて知ったこと無く、そんなの全部置き去りにしていってやる。

 わたしはどこまでだっていってやる、あんたがそう言ってくれたから。

 わたしの限界だろうと関係なくそんなの全部突き抜けていってやる。

 そのための、選択はもう選んだ。

 そのための、決意はもう決めた。

 これから先へ、もっと前へと進むため。

 こことは違う、さらに遠くへゆくために。

 そう選んで、そう決めた。

 そうしていくた覚悟は、もうできた。

 でも、だけど、わたしは。

 それでもわたしは何回も、迷って、さまよい、立ち止まる。

 そのたびわたしは何回も、揺れて、まどって、閉じこもる。

 不安と不信に囚われる。

 それでもわたしはそのたびに、

 何度だって選び直して、何回だって決め直す。

 それは何回でも何度でも、苦しくって辛くって痛い思いを味わうことになるだろうけど、わたしは決して

 それにどんな味か知っている。

 それがどんな味がするのかを。

 知りたくて知ったわけじゃ全然ないけど、その思いが泥と血の混じったような味がすることを。

 だってたっぷり教えこまれたから。

 美味しいお母さんの料理とは全然違う、もうひとつの美味しくない母の味。

 その思い出したくもない慣れ親しんだ味を存分に噛み締めて、転がってでも這ってでも、わたしは前へ遠くへ進んでゆく。

 わたしの見ている場所に向かって、わたしの目の向くほうを目指して。

 どれだけわたしが、曲がって折れることはありはしない。

 そんなわたしの前に立ってるやつは、そんなわたしの邪魔をするやつは、全部曲げてへし折ってやる。

 わたしがいきたいところへいくために。

 わたしが生きているかぎり。

 そう胸のなかで脈打つ意志を、手を当てることなく信じられる。

 後ろで見ていてくれるあんたのことを、振り返ることなく信じている。

 だからわたしにもう一度、あんたに訊いてほしいことがある。

 あんたの言葉でもう一度、わたしは訊きたいことがる。

 あのときは”違う”としか思えなかった。

 違うとこころのなかで思ったまんま、わたしは魔法少女になったんだ。

 その想いはいまでもわたしのこころのなかで、熾き火のようにくすぶって燃えている。

 その残骸をなくしてしまいたい。

 わたしのこころに灯った火を、絶やしてしまわないために。

 この暖かく優しい灯りが、消されることのないように。

 いらないものを捨てて、大事なものを守るため。

 いまここで、新たなけじめをつけておきたかった。

 その想いを両目にこめて、緑の目をまっすぐ射抜く。

 緑一色に彩られた、をした目を正面から。

 は何もしなくったって、勝手にひとのこころを汲んでくれるこの緑の目だ。

 これだけやってわたしの想いが伝わらないわけがない。

 その視線を受けた緑の目はすごく何かを言いたそうにしていたけど、目を逸らすことだけはしなかった。

 そして何を言っても無駄だと思ったのか、どう言っても無理だと察したのか、何も言わずに小さくため息だけをついた。

 この緑の目がため息をつくところを初めて見た。

 でもそれは諦めたからでは決してない。

 わたしと同じく、腹をくくっただけだろう。

 いつもなら「その想いでキミが首を括る羽目にならないといいけどね」なんて言いそうだけど、いまの緑の目にそんな様子は全然なかった。

 ただ静かにその十字のかたちの緑の目を、まっすぐわたしに向けてくる。

 ごめんね、こんな嫌なことさせて。

 悪いのは全部わたしだから。

 罪も罰も報いも、わたしが全部受けるから。

 どうしてもあんたに、言ってほしいんだ。

 わたしの、始まりの言葉を。

「キミは魔法少女になれるよ。そのが、あるからね。……それでもキミは、魔法少女に、なりたいのかい?」

 いつも通り落ち着いた、だけどいつもと違うちょっと声で、初めの問いを口にする。

 その問いへの応えは、その問いの答えは、いまのわたしにはたったひとつしかありえない。

「うん、いいよ。そこまで言われなくてもやったげる。それがわたしの意志だから。魔法少女になることが。だってわたしはずっと魔法少女になりたくて、ずっと魔法少女をやりたいんだから」

 それはとてもちっぽけな、でもたしかにこの胸のなかにあるで応えた、わたしの最初の答えだった。

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