第58話わたし、魔法少女になりました そのじゅうご(わたしの意志で決めたものはわたしだけのものなんです)

「どこまでついてこれるか、か。それはとてもいい問いだね。実にキミらしく、最もキミに似合っていると言っていい。やはりそうあることこそがキミの性質を示しており、それでこそキミの素質は活き、そしてそれこそがキミの本質の現れだ。しかし真逆まさかだよ。今更になってキミにそんなことを訊かれることになるとはね。その問いはボクにとっての心外以外の何者でもないことだよ。そう問われる事自体が、ボクにとっては何よりも心の痛むものだよ。これでも一応、ボクにもそう感じるものは確かにあるからね。本当だよ。それを本当に心と呼んでいいのかどうか、それが本当は心と呼ばれるものなか、それは果たして本当の心と呼ぶべきものなのか、その正確な判断は今のボクには出来かねる。でも今だけは便宜上そう呼ばせてもらうことを承認してくれると助かるよ。その方が話は早いし解りやすいだろうから。とは言え勘違いしないでね。大丈夫安心して、キミの事を責めたり咎めたり非難している訳では全く無いよ。先程の言葉は心底本音ではあるけれど、そんな事は些細なことに過ぎない。何故ならキミからあらためてその問いを向けられることそのものが、ボクにとって至上の喜びだからだよ。だからその最高の歓喜を享受したと同時に、ボクの心が多少傷ついたなんてことは取るに足らない些末な事に過ぎない。寧ろ、ボクはキミに謝罪しなければいけない。今更キミにそんな問いをさせてしうなんて。キミが許してくれるか解らない。キミに許してもらわなければ意味がない。それは重々承知の上で、ボクはキミに頭を下げる。これは全てボクの怠惰の結果だ。キミにどう思われてしまったか、キミに何を思わせてしまったか、それはキミの心に思い至らなかったからだ。キミに不満を持たせてしまったこと、キミを不安にさせてしまったこと、キミに不信を抱かせてしまったこと、これはキミの心を慮ることが足りなかったからだ。ボクはもっとキミの心を思い遣るべきだった。だから全てボクの責任だ。本当に御免ね。こらからは今迄の全てを反省し、その全てを改めて教訓としてキミと正面から向き合っていくと約束しよう。ただキミのためだけに。キミだけを想おう。一方通行の想い程虚しいものはないけれど、その想いは決して

 ……どうしてひと言で訊いたはずのことなのに、こんな量が返ってくるんだろう。

 何かいろいろ言ってくれたみたいだけど、全部まとめて言ってくるから、何を言われたのかよくわからない。

 それでもその言葉に嘘がないのはなぜだかわかる。

 ホントにわたしを想ってくれてることも自然に伝わる。

 そこにまたチクチクと、悪意のない嫌味を感じるのいつも通り。

 それが実に

 あんたに一番似合ってるって言ってもいい。

 そうしてわかったことがもうひとつ。

「あのー、たくさん言葉にしてくれるの正直嬉しいからいいとして。あと別に謝ったりしなくていいとして。その言葉の中にわたしの訊いたことの答えがない気がするのは、わたしの気のせいかな?」

「そう、それはありがとう。でも大丈夫、気のせいじゃないから安心していいよ」

 全然安心できないんだけど。

 というか、もしかしてまだ続くのこれ?

「キミが進む道を踏み外したときは、ボクがキミの足下を支えよう。キミが伸ばした手で掴み残ったときは、ボクも一緒に手を添えよう。キミの頭上に避けられない雨が降りかかるときは、ボクが身体を張って傘になろう。キミが、ボクは三歩下がって見守ろう。勿論ボクにも限界はあるから、頼るときそこは考慮して、配慮してからあてにしてね」

 最後にそう釘を刺すのが、ホントに実にあんたらしい。

 それがなければもう少し、素直に受けとれたかもしれないのに。

 でもあんたはきっと、を理由にも言い訳にもしない。

 やらなないことの理由にも、できないことの言い訳にもしない。

 それはたしかに、伝わったから。

 それにあんたは、わたしを後ろから見ていてくれる。

 何かあったら、ちからを貸して助けてくれる。

 でも決して、わたしに

 わたしの前にはでてこない。

 わたしに先を示さない。

 わたしの見るべき場所は、わたしが目を向けるべき方向は、

 それはその結果も責任も、わたしだけのものにするために。

 なるほど、よくわかってるじゃないか。

 そうしないとダメなことを、わかってくれてるじゃないか。

 だけどやっぱり。

「やっぱり答え、まだ聞いてない気がするんだけど」

「それは気のせいだね。それともキミの理解力のせいかな。ボクはちゃんと言葉にして答えたよ」

 あんたのせいだよ、と思いっきり言ってやりたいのをぐっと堪える。

 わたしはできる子。我慢のできる子。よしできた。

「ひと言で、せめてもう少しわかりやすく言ってくれないとよくわかんないよ」

「そうかい、それじゃ改めて。ボクはずっとキミの傍にいるよ。キミが何処にゆこうとも。キミがゆくところ何処までも」

 最初からそう言ってくれればいいのに。

 でもそう言ってくれたから、そう言ってくれるなら、それだけでいい。

 信じた想いが、報われたから。

 無駄にならずにすんだから。

 それはとっても現金な思いだったけど、その言葉はお金にはかえられないものだった。

 こういうのがまさに、いわく金言っていうんだろうね。

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