第37話わたし、魔法少女の日常を歓迎します(変わってしまっても変わりません)

 とりあえずごはんにしよう。

 どんなに日常が変わっても、世界に何が起こっても、お腹がすくのは変わらない。

 だってわたしはまだ、生きてるんだから。

 そこでんな気持ちになったとしても、どんな気分であったとしても同じだった。

 

 わたしの日常からお母さんがいなくなっても。

 わたしの日常に緑の目があらわれても。

 わたしが魔法少女になったとしても。

 変わろうと思わなければ、何も変えられない。

 生きてるっていうのは変えられるってことで。

 生きてくってのいうのは、変わっていくってことだって。

 お母さんが、言ってたから。

 もちろん、ちゃんと生きてるときに。

 だからお腹がすくってことは。

 わたしはこれから、変わっていきたいと思ってるんだろうか。

 もういつもとは違う、変わってしまった日常のなかを。

 わたしがまだ、生きていたいと思ってるってことなんだろうか。

 そのために、変わらずお腹はすくんだろうか。

 それって結局、

 それとも大事なことを変えないために、変わらないことがあるんだろうか。

 そんなもの、あるんだろうか。

 変わらないものなんて、あるんだろうか。

 そしてそれに、

 何にせよ一瞬ゾッとしたけれど、こんなの当たり前のことなんだ。

 、いつでもいくらでも変わり続けてるんだ。

 あいつらを殺したときから。

 魔法少女になったときから。

 あの子が食べらてるのを見たときから。

 お母さんが死んじゃったときから。

 きっとそれよりずっと前から、ずっと変わらず変わり続けてたんだ。

 わたしは失くしかけたものを、もとに戻したと思ってたけど違うんだ。

 もとに戻したんじゃなく、

 それにさっき、気づいただけなんだ。

 あーあ、なあんだ、びっくりした。

 急にお化け屋敷に放り込まれたらたしかに怖いけど、最初から怖いことなんて何もない。

 わたしの日常が、もうそれだけのことだ。

 ようこそ、新しい日々。これから毎日よろしくね。

 それに日常が変わり続けていくものなんだったら、こんなに簡単に変わっちゃうものなんだったら。

 そこに生きてるわたしも、きっと

 だからそのためにも、ごはんにしよう。

 生きるために、変わっていくために、ごはんを食べよう。

「どうしたの? 急に固まったと思ったら、気持ち悪い笑顔になって」

「え、わたし、笑ってた?」

 だとしても気持ち悪いは余計だ。

「うん。人間性が全部欠落したような顔になったと思ったら、にやーっと裂けた深淵から滲みでてくるような笑い方だったよ」

「無駄に長くて嫌な説明ありがと。よく見てるんだね」

「それは勿論。どんなときでもどんなことがあっても、ちゃんとボクは見ているよ」

 どうしよう、わたしの新しい日常に入り込んだのはストーカーでした。

 それもかなりの悪い。

 警察に電話したら、なんとかしてくれるだろうか。

 無理だろうなあ。

 まあ、そんなことしないけど。

 それにそのことで不安になったり、そのことを気味が悪いとは思はなかった。

 むしろそのことは心強くて、そのことが嬉しかった。

 言ってしまえば、安心した。

 わたしのこころが、やすらいだ。

 そんなこと、絶対に言わないけど。

「それはまた熱心なことだね。わたしはパンダじゃないよ」

「それはよく知ってるよ。それともキミは、?」

 そんなわけ、あるわけないでしょ。

 、わたし自身がよく知ってるよ。

「でも確かに、目立つという一点だけに関していえば共通項がないとは言い切れないかな」

 その話はもういいよ。

 余計なことはもういいよ。

 でも、最初に言わなくていいことを言ったのはわたしのほうか。

 パンダみたいに目立っていいことなんて、

 目立つからって、人の目を惹くわけじゃない。

 誰かに気づいてもらえるわけじゃい。

 みんなが気遣ってくれるわけじゃい。

 わたしは、母とは違うんだから。

 そんなわたしが愛されることなんて、あるはずないのに。

 そんなわたしを愛してくれるひとなんて、もういないんだから。

 それに愛なんて、どうせお金でかえるしね!

 この世にあるものは全部お金でかえるんだって教わったし。

 そこに値札が貼ってあれば、お金をはらえば手に入るって母が言ってたし。

 ……そのお金が、ないんだけどね。

 それにいま必要なのは、愛じゃなくてごはん。

 こういうのも、花より団子っていうのかな。

 わたしはそう思いながら、ごはんが炊けた炊飯器を確認すると自然と笑みがこぼれてしまう。

 今度の笑顔は気持ち悪いとは言わせない。

 だってこの笑顔は生きるため、そして変わっていくために、前に進む笑いだから。

 だから多分、大丈夫。

 その笑みを、鏡で見る気はないけれど。

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