第33話わたし、魔法少女になってもお腹はすくんです(そういうところは変わらないんですね)
そんなこんなでいろいろあって、どうにかこうにか家に帰ってくることができたわたし。
いつもどおりの日常に、「ただいま」することができたわたし。
そこに「おかえり」を返したのが、非日常の象徴みたいなこの緑の目だった。
あんたが言うな、といろいろな意味で思ったけれど。
それでも、何もないより全然よかった。
こんなのでも、あってくれて全然よかった。
「おかえり」と言われたそのとき、わたしのこころが
ひとが生活を始める合図のように、真っ暗な部屋に灯りをつける。
柔らかな灯りのなかに、いつもと何も変わらない日常が浮かびあがる、
変わってしまったのは、もうお母さんがいないこと。
そしてなぜかそこに、この緑の目が増えたこと。
まるで
これで足し引きは
そんな計算あってたまるか。
この緑の目が、
失くしてものに、足りるもんか。
でもこの緑の目の「おかえり」が、わたしがちゃんと帰ってきたことを感じさせてくれたのは事実だった。
ホントはとっても単純なことなのかもしれないけど。
わたしは、何だかとっても複雑な気分だった。
「どうかしたの? 真逆
そこに当の緑の目が、いつもどおりの落ち着いた口調ではなしかけてくる。
その悪意のまったくない嫌味もいつもどおりだ。
「そんなわけないでしょ。ちゃんと
そこはあんたも見てたでしょ。
「確かにそうだったね。ただ
そんなこと言ったって、どうせ最初からわかってて言ったくせに。
その目の色と違って、口にする言葉は漂白したみたいに白々しい。
それにもしわたしがそんな目をしてたなら、その原因はあんたにある。
何も変わらない日常のなかに、急に
それだって、いつの間にか
変わらないものがあるんじゃなく、変わったものが代わるだけ。
誰も気づかず、誰にもわからいうちに。
でもそれって、変わらないってことは同じことで、気づかないってことは気にならないなことで、わからないってことはどうでもいいことなんだろう。
わたしの日常もそうなっていくんだろうか。
いまは特別だと思えることが、何でもないことになっていくんだろうか。
魔法少女になることが自然になって。
魔法少女でやることが当然になって。
魔法少女で在ることが、日常になったとき。
もしそんな日がきたら、そのときわたしは、
そのときわたしは、この家に帰ってくることができるんだろうか。
でもそんなこと、いま思ったってしょうがない。
いまはまだ、帰るべき家と日常がある。
それだけで十分、幸せだ。
それにいまは、おまけまでついている。
それだけは、余計なもののような気がしないでもない。
だけどそれも全部まとめて、わたしの新しい日常になっていくんだろう。
そんななか、いつもどおりわたしを迎えてくれたこの部屋はホントにありがたい。
ホント、何もなく変わってなくてよかった。
盗られるようなものなんて何もないけど、家具の位置とか変わってたらどうしようかと思った。
そんなことになってたら、わたしは押入れを背中にして立つことができない。
魔法少女は人を殺せるみたいだけど。
お化けとかは、殺せるんだろうか。
もうとっくに死んでいる、もうとっくに終わってしまったしまったものを、どうにかできるんだろうか。
何とかすることができるんだろうか。
そんなことを
わたしのお腹の虫が、グゥーっと大きな悲鳴をあげたのは。
「今日は大活躍だったからね。まずは食事を済ませてから話そうか。キミが訊きたいことも、ボクが説明したいことも、全部ね」
「……うん、そうだね」
わたしはお腹の音をバッチリ聞かれた居心地の悪さで、その提案に素直に従った。
この緑の目はそんなこと、全然気にしていないのに。
それが何だか不公平だ。
それに癪だけど、お腹がすくのはどうしようもない。
生きてるんだからしょうがない。
だけど。
動いたら、その分お腹が減るのはしょうがない。
でも
わたしはそんなどうしようもないことを思いながら、冷蔵庫の扉に手をかけた。
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