64日目 履歴書

「次の方、どうぞ」


 大きな声で目が覚めた。ドアを叩く音がする。


「どうぞ」


「失礼します!」


 元気な声がして、ひとりの男が入ってくる。

 筋トレが趣味なのだろうか。かなり体格がいい。黒いスーツをぱつぱつにしている。


「あ、どうぞお座りください」


「失礼します!」


 俺を持った・・・男は、ややダルそうに本の一瞬だけ眉をしかめて、今入ってきた男の方を見てから、俺に視線を落とす。


「長田さんね」


「はい! 長田秀明と申します!」


 小ぶりな会議室。机の前に座る3人の面接官。ぽつんとドア側、ひとつだけ置かれた椅子。どこからどう見たって、就職活動の面接である。俺はやったことないけど、たぶんこんな感じ。

 そして――そんな中で俺は真ん中の面接官にガン見されている。


「じゃあ、まず、1分くらいで自己PRをお願いします」


「はい! 私は××大学体育会でラグビー部に所属しており、レギュラーとして~」


 元気よく自己PRをはじめた就活生を尻目に、俺は結論づける。

 今日の俺は、どうやら、彼の履歴書になったようだった。神様を殴るのは無理そうである。


「~た経験から、先輩や監督の話をしっかりと聞き、それを自分できちんと解釈し、チームのために貢献することで大きな成果を挙げることを学びました」


 俺を持つ面接官の首が、小さく縦に揺れる。

 こちらから見て左側――女性の面接官が、口を開いた。


「なぜ弊社を志望されたのでしょう」


 彼は淀みなく答える。


「御社は業界の中でもトップクラスのシェアをお持ちであり、将来は△△に関わる仕事をしたいと~」


 ガタイがいいだけじゃなくて、頭も回るらしい。この人引っ張りだこだろうなあ。礼儀正しいし、初対面でも「この人はちゃんと働きそう」って印象を与えてくる。紙っぺらの俺でもそう思うんだもん、実際対面して話を聞いている人間だってそう思うはずだ。

 ……だいぶ、「人間」としての自覚が保てなくなってきた。いや、元人間なんだけど。転生しまくってるせいで、自分が人間じゃなく思えてくる。いや、人間だよ。これだけ考えられてるし。うん。


 はあ。

 俺も就職したいよ。誰か、転生しまくる俺を留めて雇ってくれ。

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