63日目 桃太郎の雉

 口に何かを放り込まれた。

 口! しかも何かを放り込む口がある! 素晴らしいぞ!!

 昨日はやっと人になれたと思いきや、絵の中の人モナ・リザというまさかの結果でしょんぼりしていたところに、ここにきて動く口である。食べられる口である。素晴らしい!


 まずは噛む。

 体の感覚としては、伝書鳩だった時に近い。足が2本で、翼があって。嘴もある気がする。

 噛む。もっちり。ほのかに甘い。……おいしい。おいしいぞ。

 このもちもちしたやつを今日の俺の体がうまく噛みきって飲み込めるかはよくわからないけれど――とにかく、味わう。味がするよ。人間の叡智の味だ。


 そして、そろそろ目の前の人物のことを考えよう。

 まあ、鳥になった俺が団子を食わされている時点で、もうわかったようなものだけれど。


 ちょんまげ姿の、刀を佩いた男の子がいた。

 反対の腰には小ぶりな袋がくくりつけられていて、その口を閉じようとしている。俺が今飲み込もうとしている団子が入っていたのだろう。彼はぱんぱんと手を払った。

 後ろには、猿と犬がついてきている。犬猿の仲って言葉はきび団子の前では嘘らしい。猿は「日本一」の旗を掲げ、犬は尻尾をふりふりしていた。

 そんな我らが主人公は、桃が描かれた鉢巻をしており――どう考えても、ガチの、桃太郎だった。


 ふう。美味しかった。

 団子を飲み込み終わると、体が勝手に、桃太郎の方にふらふらーと動き出す。口が自然と開き、喉から自然な日本語が出てくる。


「桃太郎さん、桃太郎さん! たいへんおいしいお団子を、ありがとうございます。鬼退治に行かれるのですね、それではこの雉も、お供いたします」


 妙に説明口調な長台詞を終えると、俺は桃太郎の後ろに回る。猿と犬の後ろを、歩きつつ跳びつつついていく。数分移動すると、すぐに海が現れた。おあつらえ向きに小舟が浮いていて、沖合にはすぐ「我が鬼ヶ島でござい」といったオーラを放つ島がある。

 うん。物語世界だ。


 一行は小舟に乗り込み、猿と桃太郎が漕ぐ。すぐに鬼ヶ島についた。

 さーて、ラストバトルだ。初陣だけど。


 俺は、神様をぶん殴れない腹いせも込めて、後から後から湧いてくる鬼の金棒をかいくぐり、無限に目を突っついて怯ませていた。

 ……結構活躍したし、もう一個くらい、きび団子くれないかなあ。

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