11日目 味噌煮込みうどん
熱くて、目が覚めた。
下の方が熱い。下の方というのは、重力を感じる方という意味だ。頭とか足とかそういう概念は今日の体にはなさそう。
熱い。
人間の体だったら、今頃焼け死んでいる。そのレベルで熱さを感じる。サウナより熱い。
ところが――今日の俺の体は、この状態を在るべき自然な姿と認識しているようだ。熱いのに快適という、意味不明な状態になっている。
なんだろ、これ。
視界は基本的に暗いのだけれど、一箇所小さな穴があり、そこから光が差し込んでいる。井戸より全然小さい穴だ。あとは暗い上に水蒸気だか湯気だかが立ち込めており、まわりの様子はよくわからない。
「おかーさん、まだー?」
え。
「もうちょっとで出来るから我慢しなさい」
え?
「はあい」
あの。もしかして。
俺、調理されてる?
下の方から熱される体。上の方に小さく開いた穴。聞こえる会話。
それを前提に考えてみると、俺が今入っているのは土鍋のようにも思えてくる。
どうやら俺は、煮込まれているらしい。まな板の鯉どころか、もっと工程が進んでいる。あとはもう食べられるのを待つだけ。当然、今日も、あの神の野郎をぶん殴るのは難しそうだ。
◇ ◇ ◇
「できたー?」
「できたわよ。
「はーい!」
何もできないまま煮込まれること数分。
入った容器(おそらく土鍋)ごと持ち上げられ、運ばれる感触がする。
「取り皿はどれがいいかなー?」
「かずほ、これがいい!」
「それだとちょっと平べったすぎるかなあ……」
なんて会話があり。
「いただきます」
「いただきまーす!」
とちゃんと唱える声がして。
鍋の蓋が開いた。
聞こえていた声の通り、大人の女性と子供が俺のことを覗き込んでいる。目元がそっくりだ。母娘で仲良く夕食、といったところだろうか。
「はい、お皿貸して」
「うん」
俺の中に箸が入ってきて、
意識とか感覚が分裂するわけじゃない、ただただ、切り離される感じ。俺は鍋の中にいるまま。
……よかった。俺が俺なまま食べられるのは、さすがにちょっと嫌だ。
俺の断片(皿というか椀の中でよく見えない)を口に運び、少女が笑みを浮かべる。
「おいしいね、
「
「みそみこみ!」
「あーもう……」
母が笑う。笑った母を見て、娘が更に笑う。
そうか。俺、味噌煮込みうどんだったのか。
なんか、悪くないな、食べられて元気出るって。アンパンマンも、こんな気分なのかな?
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