4話:冒険者ギルドにて
解体した魔物の爪や牙といった換金できる箇所をミーニャが持っていた布袋に入れて、俺たちは森を後にした。
その十数分後、王都・ランバルディアに到着した。
そこは言わずもがな、俺を含む二年二組を召喚したアルトリア家の王城がある都だ。
それゆえに立派であり、人口も多い。
また、商人たちの出入りも多く、大変賑わっている。
しかし、異世界と言ったら、中世ヨーロッパ風の建造物――いわゆるレンガ造りの建物が並んでいると思ったが、そうでもなかった。
壁は白塗りで、外装がとにかく簡素。同じような造りをした建物ばかりが並び、人が建てたのかと疑問に思うほど機械的だった。
王宮は例外で、一目見るだけでそれ以外の建造物とは違い、多額のお金が投じられて造られているのが理解できる。
そして、もう一つの例外がここ――冒険者ギルドだ。一言で言うなれば、ボロい。掃除が行き届いていないのか、蜘蛛の巣が張り巡らされているし、周りの建造物と比べて浮いている。
しかし、一番馴染みやすさがある。
柱や扉に木材が使われていて、機械的じゃないというか、ちゃんと人の手が入っているのが分かるからだろうか。
ただ、なぁ……。
「どうしたのぉ? 溜め息なんか吐いちゃってぇ。もしかして、わたしが可愛すぎるからぁ?」
「それは断じてないから安心しろ」
「なら、どうしてぇ?」
「いや、なぁ……。俺、なぜか分からないけど、冒険者に毛嫌いされてるみたいなんだよなぁ」
そう、それは王宮から追い出されて、誘われるように冒険者ギルドに足を踏み入れたときのこと。
何もしていないのに、締め出されそうになったのだ。強面で屈強な体つきをした、いかにもな男どもに。
俺は急なできごとで、何がどうなったのかはイマイチ理解しきれていないが、ギルド職員のおかげで命拾いした。
だから、正直言うと、怖い。
日本にいたときは、こんな場面に出くわすことなんてなかったし、そもそも起こり得ないようなシチュエーションだ。
う~ん。俺、嫌われるようなことはしてないしなぁ。もしかして、軟弱そうだから追い出そうとした、とかだったりする?
いやいや勘弁してくれ。同じような理由で、追い出されてたまるか。でも、それ以外に理由あるかなぁ……。
頭を傾げていると、ミーニャは『え? なに言ってんのこいつ』みたいな表情で、俺を見つめるのだった。
「え、なに?」
「いやぁ、ハルト様ってやっぱりおバカなんですねぇ。ハルト様が冒険者に毛嫌いされる理由なんて一つしかないじゃないですかぁ」
「やっぱりってなんだよ、やっぱりって。お前には言われたくねぇよ」
「いえいえ、ハルト様はアホでいらっしゃいますよぉ。だってぇ、冒険者は魔物を倒して生計を立てているのに、それを邪魔しようとしているのに気づいてすらいないんですからぁ」
そう煽られて、たしかにそうだったと今さらになって理解する。
異世界人は見つかったら最後、魔物に狙われ続ける運命。
一度、何十匹という魔物に追い掛け回されたから俺だからこそ言えるが、ただ狙われ続けるというわけではなく、引き寄せているのだ。
その範囲がどれほどのものかは想像がつかないが、たったの数分で何十匹もの魔物に追われるということは、それなりの範囲が対象ということになる。
もし、その法則を利用されれば、人が狙った魔物には手を出さないという暗黙のルールがある冒険者は、たまったものじゃないということだ。
いや、でも待てよ?
「それなら、異世界人をパーティーに誘えばいいんじゃない?」
安直だと言われればそれまでだが、理にかなってると思う。
しかし、そうではないらしい。
「はぁ……、ハルト様。普通、冒険者は一対一に持ち込んで戦うのがセオリーです。そのセオリーをなしにしても、冒険者には魔法が使える人は少ないですから、複数を相手するのは難しいんです。知らなかったんですかぁ、おバカさんですねぇ」
最後のやつはいらないと思うんだが、なるほど、そうなのか。
今日俺がやってのけたことは、イレギュラーということか。
「まぁ、大体の事情は分かった。また突っかかってきたら、一緒に魔物討伐しようぜって誘ってみることにするよ」
そう言いながら、歩みを進めて――冒険者ギルドの扉に手をかけた。
次の瞬間、
「――――ッ!?」
男が扉を突き破り吹っ飛んできて、俺もそれに巻き込まれて後方に飛ばされ、下敷きになった。重い……。
「なん、だ……?」
幸い、大した痛みはなく、動かなくなってしまった男を押しどけて、冒険者ギルドの扉の方に目を向けた。
しかし、そこにいたのは――
「あっれれぇ~? そこにいるのは城から追い出された『メシジマ』くんじゃん? さっきぶりぃ~」
国王に同調して、俺を率先して王城から追い出そうとした柊、その人だった。
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