第6話 未来を決める確認事項

 家に来た海音に、明音の母は今日も偽物の笑顔を貼り付けて応対している。


 ──今日こそ、確かめるぞ……!


 とても勇気のいることだったが、明音の未来を決める確認事項だ。有耶無耶うやむやにするわけにはいかない。

 そんなことを考えていると、自然と口が重くなった。


「明音、どうした? なんか悩み事?」

「え? どうして?」

「ボーッとしてるから」

 明音のベッドに座ってピンク色のミニギターを触りながら、海音が言う。


「うーん……お金が合わなくてさ」

「お金?」

 海音の受け答えは不自然ではなかった。特に動揺もしているようにも思えない。

「うん、家計簿ちゃんと付けてるはずなんだけど、一万円ぴったり足りなくて」

「家計簿なんて付けてるんだ?」

「一応ね」


 明音が『家計簿をつけている』と言った時、海音の顔色がちょっとだけ変化した。……ように、明音には見えた。


 「うーん、うーん」と頭の中を整理している明音だったが、これはお金が合わないという悩みだけではなく、もしかしたら海音が盗ったのかもしれないという頭の中のぐちゃぐちゃと闘っている声だった。

 その日、どんなに楽しい会話を海音が持ち出しても、明音は上の空だった。


「……ごめん! 俺!」

 まともに会話を楽しんでくれない明音をうとましく思った海音が、突然自棄やけになって言い放つ。

「ん?」

「一万円盗んだの、俺」

 明音は自分から海音を疑う言葉を口にする前に、海音から言い出してくれたことにホッとした半面、やっぱりそれが現実で、もう避けられないのだという残念な気持ちに襲われる。


「その金でこれ、買ったんだ。ごめん」


 あんなに嬉しかったピンク色のミニギターを指して、海音が言った。やっぱりそうだったのか……。母の勘はすごい。

「でもピアスは俺の金で買ったよ?」


 ──違う。そういうことじゃない。


 明音は、海音の残念な面ばかりが目立つこの状況で、普段通りに笑って過ごすことなんてできなかった。

「海音、ごめん。今日は帰って」

 明音の言葉に黙って腰を上げ、ミニギターを置いて

「ごめんな。今度返すから」

と言い残し、海音は明音の部屋を出た。


 ──そういうことじゃ……ないんだよ……。

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